2月9日(土) 横浜能楽堂
組踊り 『執心鐘入』
宿の女:佐辺 良和 中城岩松:新垣悟 座主:玉城盛義
能 『道成寺』 (宝生流)
シテ(前・白拍子、後・蛇体)宝生和英 ワキ(道成寺住職)福王和幸 アイ(能力)山本泰太郎と山本則孝
面:前シテ「白曲見」(作者:古元利) 後シテ「真蛇」(作者:赤鶴)
『執心鐘入』
琉球の朝薫は、この五回シリーズ中、2回目。いつも似たような能と朝薫を組んでいたが、今回は、ほぼ『道成寺』と同内容。相変わらず話す言葉は、聞き取れないけど、『道成寺』と同じように、美少年の旅人中城岩松が、一夜の宿を借りた先の女が、言い寄って、寺に逃げて鐘の中に隠された中城を追いかける。座主が鐘から逃がすと、女が鐘に入って、鬼女に変わり、最後は調伏される。鐘の中で鬼女に姿を変えたときに般若の面を使うところも、同じ。今回、面は、どなたかの先生に借りてきたらしい。沖縄ではどうしているのだろう。
女の執念は、恐ろしいまでの男への好意というか執着は、琉球文化でも同じと言うことか。
宿の女の佐辺良和も、中城岩松の新垣悟も、まあ、きれいにお化粧していて、衣装も同じようにきれいなので、男女の区別は、持ち物くらいでわかるか。
琉球文化とヤマト文化の交流。
『道成寺』
期待して、期待して、やっと生番。もはや期待で頭がいっぱいで、最初のお調べの辺りでウルウル。囃子方などが入場して、『執心鐘入』で使用した鐘と同じものが、狂言方によって舞台に運び込まれる。そこでも、じっと緊張して見守る。
住職(ワキ)と能力(アイ)の語りの後、笛が鳴って、白拍子(前シテ)が、お幕が上がってしばらく経って、ゆっくり登場するともう感極まる。白曲見の面が美しく、悲しい。白拍子に形を整えて、橋がかりに行き、振り向いて、鐘をキッと見上げる。このキッが素晴らしい。足早に舞台に出て、乱拍子。本番を見る前に、観世の乱拍子を何回も見たせいか、宝生の乱拍子は穏やかで、ちょっと拍子抜け。あまり動きが無い。大鼓に合わせて動かす足もゆっくり。優雅さと優美か。乱拍子ってほど、乱では無い。
引き続く急の舞はさすがで、鐘飛び込みも成功。
後場、蛇体となって登場するシテ。僧達との戦い。最終版で、橋がかりに逃げる前に、もう一度キッと鐘を見上げる。このとき、シテは後ろ向きなので、表情が見えない。これは観世も同じだった。どういうキッなのだろう。これから鐘に近づこうとする時の、白拍子の白曲見面のキッ。調伏させられて逃げる前の、蛇体の真蛇の面のキッ。どちらも、女の執念、執着か。
鐘の運び出し、囃子方地謡方の退場の時に起こる拍手は良いタイミング。だが、近くのおばばが、結構大きな声であれこれ話し出したのにはうるさくて、気が散ってしまって、閉口した。能は、見所と舞台と一体にならねばならない。
シテの宝生和英は、三十代前半で若いが、シテ方宝生流二十代宗家だと。
今回は、座席が、2階席の最後部で舞台と遠かったから、面がよく見えなかった。オペラグラスが必要だ。
この日は、終了後、野毛のフグ屋で、フグ料理、ふぐヒレ酒、フグ白子酒などを堪能。能とフグ。寒い一日だったから、余計に楽しい。能は良いなあ、フグはうまいなあ。これぞ高等遊民。