1月13日(日) 横浜能楽堂

狂言組(和泉流)

武悪 シテ(武悪)山本則孝 アド(主)山本則重 アド(太郎冠者)山本凜太郎

福の神 シテ(福の神)山本東次郎 アド(参詣人甲)山本則重 アド(参詣人乙)山本凜太郎 地謡

     面:福の神(作 伝 河内)

お話し 山本東次郎

仕舞 玉之段 舞:山本東次郎 地謡

 

今年4段目の新年ブログは、狂言。これで今年は、能、落語、クラシック、狂言と、高等遊民趣味道の4大要素が開始した。

 

武悪は60分の大曲。いつもの狂言の出とは異なり、主が怒っている。ピリピリしている。武悪を討てと太郎冠者に命ずる、刀にかけて命ずる、いきなり緊迫した出だしなのだ。狂言ではない感じ。太郎冠者の太刀の捌きが素晴らしい。緊迫感が伝わってくる。格好いい。後半は、武悪が幽霊姿になって主に復讐する。ここで、武悪面を着けているはずだが、垂れた髪で見えない。幽霊特有の竹の杖を突く。やっと狂言らしくなる。この大曲は、能と言ってもいい。後で東次郎さんが解説していたが、隅々まで計算、考え抜かれた演技。心理劇だと。初めての演目だけど、素晴らしかった。まさしく、プロの演技。

 

福の神は、黄金の衣装や烏帽子に、福の神だけに使う面を着けた神が、笑いながら登場し、酒を飲んで、舞うというおめでたいお話し。面は年代が書いていなかったが、400年以上経ったものらしい。今年のおみくじは、小吉だったけど、「笑」が重要とあった。新年に相応しい演目。

 

東次郎さんのお話は、この狂言堂特有のもので、何回か出演しているけど、話したくて仕方が無い、という感じ。武悪について熱く語る。ちょっとポイントがずれたとか。客向けだけど、東次郎さんより若い演者=能楽師に取っては、教えて貰っていると言うことだろう。武悪の語りなどを次々と話して、解説していく。いつでも、どの役でもできそうだ。東次郎さんは、4月からここで東次郎家伝12番というのを演じて、そこでは開設の時間は無いし、この1年間狂言堂の出演はお休みと言うことなので、もうしばらく東次郎さんのお話は聞けないのだ。

 

その質疑の中で、狂言寝音曲の中の舞が、大蔵流は大した舞ではないけど、和泉流はしっかり舞うと、それは、海人という能の中の、玉之段だと。それを急遽演ずることになって、地謡を呼び出して、海人の解説もしながら、舞の解説もしながら、玉之段を舞う。前半は優美に、一転後半は激しく床を踏みならして。息子の出世のために命を賭して宝の玉を取り返しに行く。(実は、先月の狂言堂で大蔵流の寝音曲を見ているのだが、こんなに和泉流と違うとは知らなかった。)いつでも、こんな舞が舞えるのだ。地謡も、台本を見ないで謡えるのだ。プロだな。日頃の鍛錬ができているなあ、と。

 

東次郎さんはもう82歳かな。いつ見納めになってしまうかも。元気なうちに見ておかないと。きっと、今回の狂言組は、歴史に残るものに違いない。あと、例えば10年経って、ああ、あのとき見たんだよ、能楽堂にいたんだよ、と自慢話ができる舞台なのだ。そんなこと考えながら、素晴らしい仕舞を見ていたら、思わず落涙。能楽で泣くとは。

S弁護士の急逝、東次郎さんもお年だし、全部、元気なうちに。日日之好日。

感動的舞台でした。