豊洲市場移転問題:何が問題となっているのか

 

●要旨

<現在問題とされていること>

・築地から豊洲への移転の有無

…安全だけでなく安心が必要

・築地市場の汚染

…「築地は基本的に汚染の問題はない」(小池都知事)

・早期移転の必要性

  …安全・安心の確保VS都議会における逆風

 

<これまで問題とされてきたこと>

・瑕疵担保責任と住民訴訟

  …東京ガスの瑕疵担保責任の免責

・豊洲への移転決定の背景、消えた盛り土と出現した地下空間

  …「無責任体制」の露呈。→癒着や公文書の扱いへの対応の必要性

 

<小池知事の対応>

・豊洲市場の安全・安心の確保

 (目下の緊急課題)

・この問題の解明を通して、都議会の癒着対策など都政の透明化を図る

(=小池知事の目指す東京大改革の本質)

・現段階での小池知事の対応への世論の評価

…都民からの支持が、都議会での逆風を押し返している状態

 

 

 

【1、現在問題とされていること】

 

問題A:築地から豊洲へ移転するか否か(最大の問題)。

 

ここにきて、「小池知事は、豊洲移転について早期に決断すべき」という声が次第に強くなってきている。

移転の有無に関しては、安全と安心という2つが争点になっている。豊洲市場の地下水(東京都がモニタリング調査をしている)からはかなり高濃度の有害物質(ベンゼン等)が採取されているが、地下水は直接飲んだり魚等を洗うのに使用しない。つまり、「科学的には問題はなく“安全”と言えるが、それだけで利用者が“安心”して豊洲を利用できるのかどうかは「政治的な課題」であると、東京都が調査を委託している専門家会議は結論づけている(3月19日)である。

 

問題B、築地市場の汚染の問題

 

築地市場の汚染状態に関しては、2月末に都庁の不手際が発覚した。「築地市場の敷地内で本来、土壌汚染の可能性があるため(2001年10月施行の都環境確保条例に基づく)事前の届出・調査が必要な工事が行われていたにもかかわらず、その届出・調査を実施していなかった」のである。音喜多都議はこれを「非常事態」と指摘した。(都民ファーストの会:音喜多駿都議)

不手際の発覚の詳細は以下のとおりである。

 

①  2月末 環境局からの発表

内容:築地市場跡地で環状2号線の工事を行うにあたり、2016年3月、建設局から調査届出書(資料の中には、土壌汚染の可能性が考えられる場所が指摘されている)が提出されていた。※この県に関しては、豊洲市場への移転が延期されたことにより宙に浮いた形となっている

 

②  2月末 中央卸売市場からの発表

内容:「環境局の指摘に基づき、都の条例による届出が必要な工事の有無について調査した。その結果、

・築地市場については2001年以降、合計8件の建設工事に際して届出が未実施。今後、条例上の届出を行い、土壌汚染の恐れのあるとされた箇所について調査を行う。

・大田市場、多摩ニュータウン市場を除く8市場においても同様に届出をしていない事例を確認した。現在詳細な調査中。」

 

築地市場の汚染の件について、2月28日の段階で小池知事は、「築地市場はコンクリートなどでカバーされ、基本的に汚染の問題はない」という認識を示しており、(地下水のモニタリング問題を抱える)「豊洲市場と同じ観点で見るわけにはいかない」と発言した。

しかしこれ以降、都議会自民党は、「豊洲と築地はどこが違うのか」と声高になる。また、建設局の報告に「築地市場の敷地に戦後、米軍のドライクリーニング工場が建てられ、有害物質を含む有機溶剤を大量に使ったとみられるため、土壌汚染の可能性がある」との個所があることから(このことは既に周知の事実であるのだが)、「具体的にどのように安全か?それは豊洲とどのように違うのか?」と執拗に小池知事に絡むようになった。

   

*本来であれば、(二元代表制の趣旨に沿って)第一に、都のずさんな執行体制を取り上げ、改革を促すのが筋である。そして都議会自民党は、小池体制になるまでは知事の与党を自負していた最大多数会派であるならば、知事の立場(築地市場の家主であると同時に、都民が“安心”して築地を利用できるよう、口が裂けても“築地にも心配な面がある”とは言えないという立場)に対する一定の理解を示すべきではないだろうか。

また、都民の代表である都議会議員として、築地市場自体の風評に対して配慮するべきところのはずだが、現在の都議会自民党に期待するほうが無理なようだ。

それにしても、こうした事例を見るにつけ、前回指摘した佐々木信夫中央大学教授の小池知事批判は、現状と真逆に見えてくる。

 

 

問題C、都議会百条委員会での石原証人(元都知事)の発言(3月20日)

 

要旨:「小池知事は速やかに決断して、豊洲に移転すべき。(不作為の責任が追及されてしかるべき)私の設定した地下水基準はハードルが高すぎた。小池知事は基準にとらわれず、都民のことを第一に考えて早期に移転すべきだ。」

 

この発言を受けて、豊洲市場への移転を促進したい都議会自民党は消費者の安心・安全にこだわっている小池知事に対し、「築地は安心・安全なのか」、「築地と比較して豊洲はどうなのか」、「築地が安全ならば、豊洲も同じではないか」等々の批判を浴びせ、“決められない知事”との印象を与えようと躍起になっている。

これに対し、小池知事は3月24日「市場の在り方戦略本部」を立ち上げ、この問題を集中的総合的に検討し、結論を得たいとしている。都議会自民党はこれに対しても、「的外れ、時間の先延ばし」(高木啓都連幹事長)と批判している。<a href="#1">*注釈1</a>

 

 

【2、これまで問題とされていたこと】

 

問題D、住民訴訟(2012年5月24日訴訟提起)

内容:豊洲市場の用地売買契約における石原元知事の責任追及

 

<法律的論点=知事の裁量権を超える価格での売買契約の締結>

高濃度土壌汚染の実態が判明し、2011年3月時点では土壌汚染対策費用が豊洲用地全体で586億円と見込まれていたにもかかわらず、石原元都知事は新規の用地購入の契約に当たって知事の裁量権の範囲を超える、“土壌汚染対策費用を適正に見込まない価格”で売買契約を締結した。

 

※汚染された土壌を含む土地を売買するときには、売主が、汚染された土壌を取り除く等土地を問題のない状況にしてから売買するか、または、更地価格から汚染された土壌の処理費用を差し引いた価格で売り出すのが基本の形である。

しかし東京都が実際に東京ガスから購入した土地(37.3ha)は1859億円。つまり1㎡につき約50万円と、「健全な(全く問題のない)土地に対して付けられている相場」と言われる額で購入したことになる。そしてこの金額は、当然「知事の裁量権」の範囲を大きく逸脱している。豊洲の場合、未だに詳細な経緯が明らかにされていないが、あの用地を取得したい東京都が買い急ぎ、足元を見られたのではないかと思われる。

 

 

問題E、瑕疵担保責任の免責(請求権の放棄)

2015年時点で、土壌汚染対策費用は豊洲全体で849億円と増加したにもかかわらず、2011年売買契約で過去、そして将来にわたる<a href="#2">瑕疵担保責任</a>の免責(請求権の放棄)をした。対策費用増加の原因の詳細は不明だが、「汚染がひどいことが分かった」というより、移転反対に対する安全・安心の対策により一層費用を使ったということではないかと考えられる。

 

瑕疵担保責任は売主の無過失責任だから、売主にとって負担となるが、売主が負担を負いたくないと考え、買主も「瑕疵担保責任を売主に請求できなくてよい」と考えた場合、双方で合意(この合意を“瑕疵担保責任免除特約”という)することも自由である。今回のケースは、(瑕疵担保責任の問題はともかくとして)この合意に該当する。

 

ただし、瑕疵担保責任免除について合意することは法律的に自由といえども、都の執行部がそれを実行することにより、都民の税負担の問題が発生することから、説明責任を含む行政責任が問われることになる。

 

*都議会<a href="#3">百条委員会</a>までの論点

 

■論点1

東京ガスの工場跡地で土壌汚染が取りざたされていた豊洲地区を築地市場の移転先と決定した経緯は?

 

①時期

1999年4月石原都知事が就任した後、具体化

2001年7月6日東京都と東京ガスが豊洲移転に関する基本合意

2001年12月25日豊洲への移転正式決定(市場審議会答申)

 

②誰が

都議会百条委員会ではモヤモヤしたままの状況(これは小池知事の愛読書“失敗の本質”に描かれた問題点そのものではないか)

 

③なぜ豊洲なのか

「築地での再整備は何度も検討したが無理であること。面積(築地が23haに対して豊洲は40haとることが可能)が広く、築地からの距離も他の候補地に比べ、近いこと。また、交通の利便性も他の候補地と比べて格段に便利であるから豊洲が第一候補になった。」(青山侑元東京都副知事:現明治大学教授)   

 

都議会百条委員会の証人席で、剛腕のイメージが強かった石原元知事が「私が採決したが、みんなで決めた」と発言したとき、「これは<a href="#4">『失敗の本質』</a>で指摘されている、戦後、戦争責任を厳格に追求せず“一億総ざんげ”で済ましてしまった精神構造と同じではないか」と感じたのは私だけだろうか。

 

 

■論点2 瑕疵担保責任の免責

・「瑕疵担保とは“隠れた瑕疵”のことをいう。東京ガスはすべてオープンにしていたのであるから、本来この用語はなじまない」(北川正恭早稲田大学名誉教授:元三重県知事)

・「都市計画決定までしていた地域の計画を当事者の東京都がひっくり返す。また、その地域は汚染された東京ガスの工場跡地である。都は本気なのか。」また、東京ガスは「別途“トヨハル計画:大学、ホテル、マンション等々を含む総合的な都市再開発計画”を構想していたことから、この土地は売りたくない」。また、「汚染されていることから、土壌汚染対策を自分たちに押し付けられたらとんでもない話」という構図の中を考えると、「どうしても条件を備えた市場用地を取得したい東京都が条件を緩めて購入したというのが本当のところのように思われる。」

 

用地の鑑定評価をする東京都の審議会に都の担当部局から出された条件は“汚染対策が無用な土地”であったことからも、そのような推測が成立する。よって、東京ガスの瑕疵担保責任は免責されることが妥当と言える。それでは、なぜ東京都はそこまでして市場の移転を実現させようとしたのだろうか。

 

*移転の背景

1998年当時の都政最大の課題=財政再建

都の実質的な財政赤字は3500億円で、18年ぶりの赤字決算となっていた。これはバブル期に行われた大型開発事業のツケ(1999.7.16サンデー毎日)と言われている。

 

「市場会計の基金で築地市場を豊洲に移転整備し、その跡地を売却し、“築地の売却益”で財政赤字を補てんしようとしたのか?」と濵渦元東京都副知事が発言(2月2日のTBS系番組“ゴゴスマ” にて)していたが、この構想が実現していれば何ら問題はなかったと思われる。ただし、当初3000億円程度(濵渦氏談)だった事業費は5884億円(2015年時点)となり、事業費の不足額は3400億円にのぼり、財政赤字の補てんどころか、築地市場の売却で何とか帳尻が合うという状況になってしまった。

 

土壌染対策費用も東京ガス分(100億円)を合わせると1000億円に上る。これだけの費用と時間をかけて、なお、消費者の安心を確保できない“公共事業”とは何なのか、それが今問われている。 

 

■論点3“盛り土”が消えた経緯は?

盛り土の消滅、そして地下空間が問題となっているが、これらも土壌汚染対策に関係がある。<a href="#5">移転予定地とされていた豊洲の土地には、帯水層</a>の上に<a href="#6">レキ層</a>がある。当初はそのレキ層の上2mをきれいな土と入れ替え、さらにそのきれいな土の上に、2.5mの盛り土をするということが、万全な土壌汚染対策として計画されていた。しかし、都の担当者が専門家会議にも諮らず、モニタリングのための空間として建物の地下に空間を設けることとし、つい最近になってこの地下空間の存在と、この空間に気化したベンゼン(有害物質)が滞留する他地下水がたまっていることが発覚して問題となった。

 

この空間については、都は議会を含めて公表せず、市場関係トップのはずの市場長ですら空間の存在を知らされていないなど、地下空間の情報が全く共有されず、当時の都の「無責任体制」(小池知事)が明らかになった。こうして議会に対する“虚偽答弁”等の理由により関係者数人が処分され、東京都庁の体質には大きな問題があることが都民にもわかったが、なぜ、建物の地下には盛り土がされず、地下空間ができたのか、その経緯については未だに解明されていない。

 

市場担当局の中には、「豊洲市場を担当するある技術系部署が存在しており、関東軍のように独走することがあった」いう噂もあるようである。「技術集団である”新市場整備部長”は、文系である”市場長はほとんどパスし、技術担当の副知事と直結」していたとの報道もある。(ジャーナリスト須田慎一郎)こういった癒着体制も問題の原因究明を困難にしていると考えられる。

 

今回の豊洲問題は、癒着対策、公文書の扱いの見直しの必要性を都民に実感させる契機となった。

 

*癒着対策

こういった事態を受け、2016年10月28日、小池知事は従来の内部通報制度(2006年4月1日に「公益通報者保護法(内部告発者保護法)」が施行され、各省庁が体制を整えていた)を拡充し、新たに弁護士による外部窓口を設置するとともに、広く法令違反行為を対象として都民からの通報も受け付けることとした。今回の豊洲や森友問題を考えると、これは極めて適切な措置であると言えるだろう。

 

*公文書の扱いの見直し

東京都の9月30日の「自己検証報告書」では、「議事録や資料が見つけられず、・・・”保存期間”もしっかり決まっていない・・・」との記述がされていたようだが、これが本当であるなら大きな問題だ。

 

公文書に関しては、公務員は「公文書等の管理に関する法律(2009年6月24日成立、2011年4月1日施行)までは、各省庁単位で文書管理規定を設けて管理していた。当時も文書の管理には相当の労力をかけていたが、必ずしも十分なものとなっていなかったかもしれない。実際、法律が施行されて以降も“森友学園問題” (こちらは財務省であるが、)で明らかになったように、随分ずさんな管理状況のようだ。行政文書の取扱い、保存期間などは、もう一度しっかりとした見直しが必要であろう。

 

「必要な行政情報の開示を市民が受けるためには、単に情報公開法

や情報公開条例が適正に運用されていることだけでは不十分だ。

重要な行政の意思決定に文書を作成すること、文書の保存期間や保

存期間を経過した文書の破棄や管理のルールが行政内部でマチマチ

に処理されないように、これらが法や条例など、誰もが知ることの

できる安定した法形式で定められる必要がある。」(『公文書管理条

例等の制定状況調査結果』総務省自治行政局行政経営支援室、20

15年3月)と指摘されているように、いまや文書もデジタルの時代であり、保存・管理の体制も含めて議論すべきだと思われる。そうしないと、どこに問題があったのか、どうすればよかったのか等反省の材料が存在しなくなる。

 

 

【3、小池知事の対応】

①安全性に対する懸念を払しょくするため、11月7日に予定されていた豊洲市場への移転の延期を表明。

(2016年8月31日)

 

②“地下空間の発覚”により小池知事緊急会見(上記論点3参照)

豊洲市場の盛り土問題に関連して”<a href="#7">のり弁</a>”の資料が公開される。以後、都の開示資料は情報開示に耐えられるものとなり、これまで隠されていた問題が明らかになってきた。

(2016年9月10日)

 

③従来の公益通報制度の拡充。

(2016年10月28日)

 

④豊洲市場の地下水調査の最終結果公表。想定外の汚染拡大の発覚。このため、複数の機関に委託してクロスチェックする形で再度調査することとなった。(2017年1月14日)

 

⑤千代田区長選挙。小池知事の支持する現職の石川候補が自民党都連の推薦する与謝野候補にトリプルスコアで圧勝した。

(2017年2月5日)

 

⑥都議会豊洲特別委員会参考人招致。

(2017年3月4日)

 

⑦都議会百条委員会証人喚問

(2017年3月11、18、19、20日、4月4日、)

3月半ば過ぎから「小池知事は・・・早期に決断すべきである」という声が強くなってきているなど、小池知事が受け身に回ることが多くなっているように見えるが、これは小池知事が初めて編成した一般会計予算案等 が議会で審議されている時期であったことも大きく影響していると思われる(知事は予算案を議会に承認してもらわなければ、執行できない立場にある。また、議会の仕組みとして、質問・意見等に反論することは基本的に認められていない。)。

   

しかし、小池知事が編成した初の一般会計予算案は、都議会にて全会一致で可決された。これは都議会において44年ぶりとなる快挙であり、「およそ半年前の知事選直後、都知事を出迎えた都議会議員は127名中たったの3人でした。わずかな期間でこのパワーバランスの変化を考えますと、・・・やはり民主主義社会で最も大きいものは有権者からの世論・支持(支持率)です」と都民ファーストの会:音喜多駿東京都議会議員が自身のブログ(2017年3月30日付け。http://otokitashun.com/blog/togikai/14576/)で述べるように、都議会内部での逆風を、<a href="#8">世論</a>が押し返している状況であるのは明らかだ。

 

【4、私見】

小池知事の問題提起は、豊洲市場の安全・安心の確保。

その次に本件の経緯をつまびらかにすることにより、

 

・石原知事時代の議会の実力者と都庁の幹部職員との癒着ともいえ

る構造

・自分たちの都合のいい情報のみを公開するといった“都の情報公

開”の体制(議会にも十分な情報が提供されていなかった模様であ

るが、当然議会の実力者には提供されていたのであるから、これも

癒着の構造の一面といえる)

 

など、東京都の体質を変えることにある(=東京大改革)。

「小池知事の東京大改革は中味がない」と批判する佐々木信夫中央大学教授などの報道番組のコメンテーターは、改革の本質を理解していないように思える。

 

(以上)

 

<a name="1">注釈1:”小池都知事は早期に決断すべき”?<a/>

この批判に関しては、一般的な意味では、小池知事が他の知事と比べて、あるいは他の案件に比べて市場移転の有無などの決断に時間をかけすぎているとは言えないだろう。ただし、東京五輪も豊洲市場移転問題も特殊な条件の下におかれた問題である。

 

① 東京五輪は、2020年という期限がある。

いくら小池知事の主張が正しくとも、「1年前のプレイベントを考えるともう時間がない。組織委員会ともめていたり、会場の見直しで時間をかけていて大丈夫か?」との声が上がっても不思議ではない。

 

② 豊洲市場移転問題は、もっと特殊な状況にある。

例えてみれば、大型の客船が港から出港していたのに、その乗客のみ下船させたようなものだ。乗客の荷物を載せたまま船は外洋に進んでいく。

船主(=都民)は船の料金は入ってこない上に、乗客の荷物の管理費を負担し(豊洲市場の維持管理費は、一日当たり500万円となると言われている)、加えて荷物を使えないことによる補償(補償は予算措置が必要であるが、長引けば何のための費用かという批判も出てこよう)を支払わなければならない。

乗客の中には、早く乗船させよという者と、そうでない者とがいる。客船が外洋の荒波に耐えられるかという問題はあるが、いずれにしてもあまり時間をかけるわけにはいかない状況にあるということではないか。

移転延期の決定が荷物の積み込み前(大型冷蔵庫等の整備の前)であれば、もっと余裕が出てきたことだろう。

 

<a name="2">注釈2:瑕疵担保責任</a>

⇒「瑕疵担保責任とは売買の目的物に瑕疵(その物が取引上普通に要求される品質が欠けていることなど、欠陥がある状態)があり、それが取引上要求される通常の注意をしても気付かぬものである場合に、売主が買主に対して負う責任」のこと。

http://www.home-knowledge.com/kouza/ko02.htmlより引用)

★瑕疵担保責任の具体例★

土地の瑕疵は地表を見ただけでは分からないので、事前確認が困難であり、契約履行後に問題が発生することになりがちである。

不動産業を営むÀが、中高層マンションを建てる目的で、土地を購入した。しかし、購入してみると、その土地の中には、多くの地中埋設物が残っていることが判明した。中高層マンションを建てるにはこれらを撤去しなければならないが、撤去費用はかなりの高額になる。売主Bに対して、撤去費用を負担するよう請求できるか?

 

土地の瑕疵については、①この事例のように、地中にその土地の利用の障害となる埋設物が存在する場合。これは、昨今ワイドショーで取り上げられている“森友学園に対する国有地売却問題”のケース。

もう一つは、②豊洲市場が典型であるが、土壌汚染の原因となる有害物質が地中に含まれている場合がある。

 

上記事例のように売買の目的物である土地に“隠れた”瑕疵がある場合、瑕疵のため契約の目的を達することができない買主Àは契約を解除でき、損害賠償請求もできることになる。

 

ここでいう「“瑕疵”の意味については法律や判例が明確に定義しているわけではない。・・・“その種類のものとして通常有すべき性質を欠いていること”とする考え方もあるが、ここでは、“その契約において予定された性質を欠いていること”という考え方を前提にする。この場合、土地に問題点が存在していても、買主に十分説明することができれば、その問題点を含む土地の性質が“契約において予定された性質”になり、そのままの状態で引き渡しても何ら欠ける点はなく瑕疵は存在しないことになる

また、“隠れた”瑕疵というのは、通常人が買主になった場合に、普通の注意を用いても発見できない瑕疵という意味で、買主が瑕疵のことを知っていたり、普通の注意をしていれば、分かった場合には、瑕疵担保責任を主張できないことになる。」(弁護士原田昌弘『不動産取引における瑕疵担保責任④』を参照)

 

*この「瑕疵担保責任」は厳密に言えば、豊洲問題には該当しないのかもしれない。というのも、豊洲の場合、東京ガスは都に対し、“あの土地は工場跡地で土壌が汚染されており、築地市場の移転候補地としては適当でない”と何度も念を押しており、その意味で「豊洲の場合は、瑕疵担保責任の問題」といえるか疑問があるからだ。

 

 

<a name="3">注釈3:百条委員会</a>

⇒百条委員会とは、普通地方公共団体(都道府県、市町村)の事務に関する調査権を規定した地方自治法第100条に基づき、地方議会が議決により、設置した特別委員会の一つ。

議会は、事務の調査を行い、関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができる(この権限を“百条調査権”と呼ぶ)。

百条調査権が発動されると、証言・資料提出の拒否に対して禁固刑を含む罰則が定められており、“国会の国政調査権”に相当するものである。

調査権の主体は議会である。議会が特定の事件を指定したうえで、委員会に対して調査を委任したときに限り、当該委員会は調査権を行使することができ、この委任を受けた委員会のことを“百条委員会”と呼ぶ。

 

 

<a name="4">注釈4:『失敗の本質』</a>

小池知事の愛読書『失敗の本質』に、以下のような内容の興味深い文章がある。

「日本軍の失敗がどうして現代の組織にとって関連性を持ちうるのか、また、教訓となりうるのか。

そもそも軍隊とは、近代的組織、すなわち合理的・階層的官僚制組織のもっとも代表的なものである。戦前の日本においても、その軍事組織は、合理性と効率性を追求した官僚制組織の典型とみられた。しかし、この典型的な官僚的組織であるはずの日本軍は、大東亜戦争(太平洋戦争)というその組織的使命を果たすべき状況において、しばしば合理性と効率性とに相反する行動を示した。

こうした日本軍の組織的特性や欠陥は、戦後においてあまり真剣に取り上げられなかった。むしろ、日本軍の組織的特性は、その欠陥をも含めて、戦後の日本の組織一般の中におおむね無批判のまま継承された、ということができるかもしれない。戦後、日本の組織一般が置かれた状況は、それほど重大な危機を伴うものでなかった。だが、日本軍の組織原理を無批判に導入した現代日本の組織一般が、平時的状況の下では有効かつ順調に機能しえたとしても、危機が生じた時は、大東亜戦争で日本軍が露呈した組織的な欠陥を再び表面化させないという保証はない。」

『失敗の本質』戸部良一、野中郁次郎他著(1984年5月発行)

ソニー、シャープ、東芝、東日本大震災発生時の福島原発の危機管理(東京電力、官邸、原子力安全委員会、原子力安全・保安院)・・・、今回の豊洲問題だけではなく、これらもまさに本書が指摘しているところであると思われる。

 

<a name="5">注釈5:帯水層</a>

地下水を含んでいる地層。地層を構成する粒子間の間隙が大きいと,その地層は地下水によって飽和される。未固結の砂層や礫(レキ)層などの透水層が,粘土や固結した岩盤などの不透水層の上にある場合に帯水層をなすことが多い。井戸の水は帯水層中の水を汲上げているものである。(コトバンクより引用:

https://kotobank.jp/word/%E5%B8%AF%E6%B0%B4%E5%B1%A4-91426

 

<a name="6">注釈6:レキ石層</a>

「“土”は,様々な粒の大きさ【“粒度”といいます】の土粒子よりできています。「粘土(粘性土)」の粒径は0.075mm以下でとても小さく,「砂」は2mmまでの大きさで,それ以上が「礫」というように分類されます。 一方,地盤の中に堆積している土は,いろいろな粒径の土が混ざっています。そのため,たとえば,粘土の量が多い土のことも,「粘土(粘性土)」と呼びます。そして,それぞれの土の多い地層のことは,「粘土層(粘性土層)」,「砂層」,「(砂)礫層」と呼ばれます。」(全国電子地盤図 やさしい解説:http://www.denshi-jiban.jp/kaisestu_1.htmより引用)

 

<a name="7">注釈7:のり弁</a>

東京都に情報の開示を求めても、渡されるのは、「真黒な資料で、時には、”のり弁”のように真っ黒。・・・皆様が請求なさっても、何もわからない状況にありました」という小池知事定例会見での指摘(2016年8月12日)により、黒塗りされた資料がのり弁と呼ばれるようになった。

 

<a name="8">注釈8:世論</a>

日経新聞3月の世論調査によれば、「都民ファーストの会に期待する」は59%と、「期待しない」の31%を大きく上回っている。