【日英交流拠点の植物園、皇室が紡いだ縁、震災契機に広がる絆】

チャールズ英国王の戴冠式参列のため、秋篠宮皇嗣同妃両殿下は5月4日から英国を訪問される。皇室とのゆかりが深く、日英交流の拠点の一つとなってきたのが、国王がパトロン(後援者)を務める「キュー王立植物園」(ロンドン)だ。生物学者として知られる昭和天皇が訪れ、上皇陛下もたびたび足を運ばれてきた同園を、秋篠宮皇嗣殿下は平成26年にご訪問。交流のある関係者は、皇室の訪問を「日本の誇り」と受け止める。

「植物の学術名なども交えて専門的な質問をされるので、説明に当たった職員はみんな驚いていました」。26年7月、アフリカ訪問の帰途にロンドンに立ち寄り、秋篠宮妃紀子殿下とともに同園を訪問された秋篠宮さま。案内した同園の植物画家、山中麻須美さん(65)は、職員に気さくに話しかけるお姿が印象に残っているという。

山中さんによると、ご夫妻は園内の図書館や温室などを2時間ほどかけてご見学。その翌年には、英国留学中だったご夫妻の長女、小室眞子さんも同園を訪れ、植物画を鑑賞した。関係者によると、博物館学を専攻していた眞子さんに、秋篠宮さまが見学を勧められたという。

豊富な知識に「感銘」

皇室と王立植物園の縁は、半世紀以上前に遡(さかのぼ)る。昭和天皇は昭和46年、欧州歴訪中に同園を訪れ、日本産のスギの記念植樹に臨むとともに、植物学の研究施設も視察。当時は反日感情が残り、植樹したスギが直後に切り倒される事件もあったが、その後、丁重に植え直された。51年には当時皇太子だった上皇陛下が上皇后陛下とともに訪れ、新たにヒノキを植樹された。

上皇陛下は平成10年、エリザベス女王から国賓として招かれた際に、同園を再訪された。案内した当時の園長が、生物学の学術機関「ロンドン・リンネ協会」の名誉会員でもある上皇陛下の知識に「非常に感銘を受けた」との逸話も残る。

同じく生物に詳しい秋篠宮皇嗣殿下のご訪問時のエピソードは、今も職員の間で話題に上るといい、山中さんは「『日本の皇室は本当に植物に関する知識が豊かで関心が深い』と言われ、日本人として誇らしく思いました」と笑う。

「お言葉」後押しに

皇室の方々が足を運ばれてきた王立植物園には日本庭園や日本の桜もあり、23年の東日本大震災以降、英国と被災地の交流の拠点にもなっている。

24年4月、同園では日本大使館との共催で震災の追悼・復興行事が行われ、岩手県の被災地の小学生らが招かれた。行事では、児童らが福島・宮城両県の県木でもあるケヤキを園内に植樹。英国からの支援に対する感謝のしるしとして、津波で被災した岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」と同じ種類のマツの種を同園に寄贈した。

山中さんはこの種の寄贈をきっかけに「一本松の姿を絵に残したい」と作品の制作を構想。陸前高田市を訪れ、一本松や近隣の高地で生き残った同じ種類のマツを視察し、28年、「奇跡の一本松」の姿を植物画で再現。作品は同年、植物園や大使館で開かれた植物画の展覧会「フローラ・ヤポニカ」で展示された。

《日本の代表的な植物を皆様にご紹介できることを誠に喜ばしく思います》。秋篠宮さまは、日本の豊かな植生や、植物画の歴史に触れるお言葉を寄せ、展覧会を後押しされた。

山中さんの一本松の絵はその後、同園から陸前高田市の施設に寄贈された。岩手の児童らが同園に植えた木は今、健やかに根を張り、大きく育っている。

23~28年に駐英大使を務めた林景一氏(72)は、「同園では長きにわたり、植物を通じてさまざまな日英の交流が育まれてきた。皇室の方々は生物への高い関心を持って関わり続けてこられたが、震災を機に個々の市民レベルを含めた絆がさらに強まり、広がった」と回想する。

(緒方優子)


キュー王立植物園 英ロンドン南西部のテムズ河畔にある世界最大規模の植物園・研究機関。1759年に英王室併設の庭園として開かれ、132ヘクタールの園内には3万種以上の植物、1万4千本以上の樹木が植えられている。約700万点の植物標本のほか、世界中から絶滅危惧種などを集めた種子バンク「ミレニアム・シード・バンク」がある。2003年にユネスコの世界遺産に登録。