【神道のこころ】國體の本義
〜春日大社 葉室頼昭〜

古代、大和朝廷が日本を治めたやり方は世界にまれなる方法だったのです。外国の王朝は武力でもって国を征服するでしょう。そうすると、そこの宗教から文化まで全部滅ぼすわけです。それで自分の持っている宗教や文化を押しつけて国を大きくして治めた。ところが、そういう国は全部滅びているのです。その土地の文化、伝統、宗教を滅ぼしたものは、どんなに武力が強大になり、どんなに経済力が発達しても、滅びてしまうんです。

ところが大和朝廷のやり方はだれが考えたのかは知らないけれども、世界でまれなるやり方をやったんです。というのは、奈良なら奈良に都を置いて国を治めるために、本当だったらほかの部族を滅ぼして、大和朝廷の天皇の宗教を押しつけるはずです。ところがそれをやらないで、それぞれの氏族の神さまを全部朝廷に持ってきた。それぞれの神さまを天皇がお祀肥いたしましょう。こういうやり方をやったわけです。だからみんな反抗しないで従ったんです。自分が拝んでいるところの祖先の氏神さまを全部天皇が記ってくださる。いま宮中に、賢 所と皇霊殿と神殿と三つのお社がある。賢所というのは天照大神の斎鏡、皇霊殿は代々の天皇の御霊、神殿は日本全国の八百万の神さまを記ってあるところです。この三つのお社をいまでも宮中に祀ってあります。

日本人は決して単一民族ではない。いろいろな氏族がいたわけでしょう。それぞれが祀っている神さまを全部天皇家におさめた。それで決して外国のように滅ぼさなかった。
だから天皇家は続いているんです。

神道というのは珍しいんですね。キリスト教だったらキリストだけでしょう。ほかの神さまを配らないでしょう。ところが神社は全部神さまが違う。それで統一されている。本当だったらそれぞれがお互い争うはずなんだけれど、神道同士が争ったという歴史はないですね。神さまは全部違う。それでもみんな統一されて、調和しているでしょう。

それは大和朝廷がそういうやり方をやったわけですが、これが本当のやり方です。だから絶対もとの宗教を滅ぼしてはいけない。滅ぼしたら自分も滅びてしまう。そういうことを知っていたんです。