90歳をとうにこえた
患者さん
骨転移があって
痛みもある中
認知症の妻の面倒を見ていた
しっかりしているようで
年齢には勝てないぶぶんも大きく
庭に出て行ってしまった妻を追いかけて
何もない玄関で
転んだ
勢いよくとって〜ん、と。
「あの時は世の終わりと思いました」
「痛くて起き上がれないのに、
妻は何もしてくれないどころか
門を開けて出て行ったんです」
「しばらく動けませんでした」
「あのときの玄関の冷たさは忘れられません」
近所の人に連れられて
妻が戻ってくるまで
患者さんは玄関で起き上がれずにいた
結局起き上がることはできず
救急車で病院に搬送されることになった
妻は夫のことを忘れてしまったわけではないが
思い出すこともなく
お子さんたちの力を借りて
過ごしていたが
お子さんたちにもそれぞれの生活がある
家族で
話し合って
妻は施設に入所されることになった
施設に入所する日に面会にいらした妻
患者さんは泣いた
「じぶんが面倒を見るってきめていたのに」
「あいつより先には死ねない」
「一緒に死なせてください」
「お願いだから・・お願いですから・・・」
その様子をニコニコしながら見ている妻
人生は予想通りにはいかない
だから切ない
だから悲しい
往診医が、というニュース
悲しすぎる出来事
お悔やみ申し上げます