「がんになってよかったっていう人がいるけど」

 

「自分は絶対そうおもえない」

 

「何一つなくなった」

 

「自分にはもうなにも残されていない」

 

「腫瘍マーカーはさがってるとか、

CTで影が小さくなってるとか」

 

「どうでもいい!!」

 

「もう長く生きる必要はない!!」

 

「退院させてくれ」

 

そうでなければ今すぐ帰る!!

 

 

 

そうやっていっているから

なんとか説得してくださいと

病棟から連絡が入った

 

 

(なにかありました?

話はだいたい聞きましたよ)

 

 

「あ〜きいたかい?治療治療って

上から目線で医者が言うもんだから

腹が立ってきて」

 

「自分がいなければ治療もできないんだぞ

っていう雰囲気で話すから」

 

(まだ痛みますか?)

 

「痛みはいいよ。ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

長い長い沈黙・・・

 

 

静かにしていると病院というのは

本当に静かで

そして

スタッフのちょっとした笑い声も

気になる

 

カーテンの隙間も

 

いろいろ気になる

 

 

 

この患者さんは

骨転移による脊髄の圧迫で

自力で歩くことができなくなっていた

 

このために

退院がすぐには難しく

自宅の環境の調整を行っていた

 

 

 

 

 

なんてかんがえていると

 

「せんせ?」

 

 

「話してもいい?」

 

 

 

「みんなさ、車椅子があるよ、とか

電動車いすも便利だよとかって言うの」

 

「でもさ」

 

「そういうことじゃない?」

 

「わかる?」

 

 

(自分の足で歩きたいんだ、自分でできること

したいんだ)

 

 

「そうなんだよ」

 

 

(なのに、その感情が無視されて

あーだこーだいわれることが疲れちゃったし怒れちゃった?)

 

 

 

「よかったよ。ようやくわかってくれる人達がいた」

 

 

それから話し続けた

トイレのこと

食事のこと

家にかえってからの生活

家族に世話をかけること

 

 

「娘に迷惑をかけたくないってのは

あたりまえだろ」

 

 

それが伝わらないんだ

 

なんでわからないんだ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

かえられないもの

 

もうもどらないこと

 

さけんでも努力してももどらない

 

 

 

 

その悔しさの感情から

医療者が目をそむけているから

 

こういうことになる

 

 

 

 

そんなに人と話すのが苦手なの?

ならば、なぜ医師をめざしたの??

 

私はそう思う

 

 

 

 

 

それはそれ

 

すぐに解決できない問題が山ずみ

 

 

よし

 

これから一緒に

考えるから!!

 

 

「おうっ!」

 

「言い過ぎた、悪かった」

 

それは自分で先生に言ったほうがいい

 

「そうだな、まだ当分いえないけどね」

 

 

 

 

問題解決ばかり考えるのでなく

 

 

相手の真の感情を

 

大切にしないといけない

 

 

 

病気はその人の一側面にすぎない

 

 

そして

かわいそうでもない

 

 

その人が病をもちながら生きている

人であること

 

あくまでも

 

 

その人

 

 

 


またまだ

ツマグロヒョウモン

羽化してます



この蝶々は

このあと

ひらひら

とんでいきました



医師って

なんか


悲しいなぁ


人間をみて


医は仁術なり