「なんで私ばかり」

「両親ともがんで亡くなるなんて」

一人娘さん

大切に育てられた


「母は高校のときに亡くなって、
それからは父が母親がわりもしてくれて」


「わたしが結婚して、ようやく父を
幸せに、って思っていたのに」


「なんでですか?」
「わたしばかり…」



私がなにか悪いことしたの?

泣き崩れてしまった





患者さんであるお父さんは

目を閉じてきいていた
ただ黙ってきいていた



なぜ


なぜって思うよね







「話しを、してもいいかい?」


患者さんが口をひらいた


「お前が母さんのかわりになって
お父さんのそばにいてくれた」

「おまえがいたから、お父さん
幸せだった」

「おまえの父さんでいられて
感謝してる。苦労かけたな」


娘さんのなみだはとまらない


「迷惑をかけたくない」
「幸せになってほしい」


「先生」と声をかけられた


はい。

「もう少し生きるようにがんばります」

「最後は緩和ケア病棟に」



「とにかく迷惑をかけたくない」
「娘に迷惑をかけないわけには
いかない。それでも、最小限にしたい」


お父さん、わたしは迷惑って思ってない


そんな、お別れみたいなこと
言わないで

と泣きじゃくる



家族には家族の数だけ
物語がある




娘さんは泣きじゃくりながら
父と一緒に帰っていかれた


これから
支えるために必要なこと

お父さんの意思を
娘さんとともに確認しながら
どうすることが
ベストなのか

考えよう



とことん
つきあう



緩和外来は
外来通院する患者さんのために
必要な場所だ


当院は
当たり前に標榜している

当たり前に必要なとこだから


落ち着ける場所

大事

がんばるのは
治療ばかりじゃない
治療するなら
がまんする、もちがう

つらいのはいやだよ