緩和の外来に

入ってきて

 

 

「正直こんなとこには

お世話になりたくないですね」

 

「まだ信じられませんよ」

 

「別になにも変わらずに

すごしていたんですよ」

 

「それが急に

大腸がんだって、手術もできないって」

 

「そんなこと信じられますか?」

 

「緩和ケアなんて安らかに死ぬためのケア」

 

「何をしてくれるっていうんですか」

 

そう話すのは患者さんの息子さん

 

 

患者さんは認知症もあって

施設で過ごされていた

息子さんが話される間も

にこにこと笑顔

 

 

大腸がん、肝転移、肺転移も

あるけれど

症状は訴えられず

車椅子に座っておられる限りは

あまり病気があるようには

感じられない

 

認知症の患者さんは

自ら訴えることが

難しいために

発見は遅れる

 

 

息子さんは

こんなはずじゃあと

いかりをぶつけてくる

 

コロナもあって

施設では面会もできない

 

家族もだけど

本人もつらいよなあ、と

思いながら

 

患者さんを診察させていただく

 

するとそのとき

患者さんが

「まあ十分に生きました」

「悔いはない」

「ありがとうありがとう」

 

そういって

拝みはじめた

 

 

息子さんはびっくり

 

「母はなにか察しているのでしょうか?」

 

「ほとんどなにもわすれちゃってるのに」

 

 

身体のことって

もしかしたら自分がいちばんよくわかるから

 

もうこれは

科学的な証明でもないけど

 

自分がなにかさっするのかも

 

 

もしかしたら

忘れちゃうかもしれないけど

私も伝えた

 

つらいことや苦しいことは

なるべくないように

あなたらしくすごしてください

いつでも

入院できるようにしておきます

 

「おねがいしますね」

「この子まだ結婚してないから

心配でね」

 

 

息子さんのことを話し出す

 

息子さん隣で首を振りながら

「ぼく、もう結婚してるし」

「まごもいるわ」

 

すこし息子さんの表情がゆるむ

 

 

私は息子さんにも本人にも伝えた

 

 

「死ぬためのケアもだけど」

「生きるためのケアでもあります」

 

まだまだ施設で過ごせるだろう

しかし高齢でもあり

いつ、何がというのは

わからない

緩和ケア病棟の手配を行うことにした

 

帰り際には息子さんの緊張も

すこし、ほぐれていた

 

病と診断された悲しみは大きく

家族の悔しさも大きい

 

コロナ禍の診療に

ほんのちょっと

疲れを感じる今日この頃

それでもコロナ以外の

こういう患者さんがいること

それを支える人がいることを

わすれないでって伝えたい

 

命って

必ず終わりがくるから

尊いのだよね

 

死ぬためのケアだろうが

生きるためのケアだろうが

どう思われても構わないけど

 

生きている時間に

限りがある以上

すこしでも充実して

生を全うしてほしい

 

それだけ

 

 

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再掲

いのちの旅

なんであれ

あなたの存在は奇跡

わたしの存在も奇跡

 

さ、今日も

いってきます!