「横領・背任の罪」その17
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■事例
ある男が、電化製品の販売店から商品を預かり、
50万円前後の価格でその商品を顧客にネット販売することの依頼を受けた。
ただし条件として、必ず代金引換で売るように、との約束があった。
しかし男は、ある顧客に50万円でこの商品を売却するに際し、
代金の支払いがまだ済んでいないのに、先に商品を顧客に引き渡した。
背任罪が成立するか?
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この場合には、背任罪が成立するようです。
背任罪とは、ごく簡単に言うと、
会社等の任務に背いて、その会社等に損害を与える罪のこと
でした。
背任罪は、会社等に対して財産上の損害が発生した時点で
犯罪が成立となります。
例えば、会社員が会社の極秘情報をライバル会社に漏らすという裏切り行為をした場合、
その裏切り行為によって、会社が実際に何らかの損害を受けた時に背任罪が成立するのであって、
情報を漏らしたものの、もとから実は大して重要な情報ではなかったために
会社に何も損害がなかったような場合などには
背任罪の未遂罪となります。
要するに、「財産上の損害」の有無が背任罪の成立要件になるわけです。
するとここで、「財産上の損害」とは何か
ということが問題になります。
「財産上の損害」とは、
本人の全体財産から見て、財産上の価値が減少することを言います。
実際に持っているお金や物が減ること(積極的損害)はもちろんのこと、
本来ならば得るはずだった利益が、妨害されるなどして得られなくなってしまうこと(消極的損害)
であっても「財産上の損害」に該当します。
また「財産上の損害」は、経済的に金銭に見積もることができるものでなければいけません。
幸せな時間を奪われた、などの具体的でない損害は、金銭に換算できないので
ここで言う「財産上の損害」には含まれません。
さて、通常は、全体財産の減少が実際に発生した場合を「財産上の損害」と言うわけですが、
判例ではさらに範囲を広げて、まだ実際に財産上の損害が発生していなくても、
損害の『危険』を生じさせたという場合にも、「財産上の損害」に該当する
としているようです。
例えば、前回の記事「横領・背任の罪」その16
のケースのように
借したお金が回収不能になる可能性が高い相手に、それを知りつつ会社名義でお金を貸した場合には、
貸した相手の事業が失敗して回収不能の事態が実際に起こる前であっても、
お金を貸した時点で、回収不能という損害が発生する『危険』を生じさせているので、
この時点ですでに背任罪が成立しているわけです。
今回のケースでは、必ず代金引換で売るように、との約束があったにも関わらず、
男はそれを裏切り、先に顧客に商品を引き渡してしまっています。
この後、顧客から代金が回収できない事態が実際に起こるかどうかは別として、
この行為を行った時点で、
代金が回収できない事になるかもしれないという『危険』を生じさせた
と見ることができます。
よって、この男の行為は、背任罪となります。
(参考文献:安西温著 河村博補筆『刑法各論』警察時報社、2003年、400-401頁)
