さすらいPAINTER~ジローの日記

さすらいPAINTER~ジローの日記


一昨年母が病に倒れた。


自分にもそんな時が訪れたかと、


どこか現実感の伴わない不思議な感覚で、


母と対面した。


ドラマで観たような光景だ、と思った。


かたりかける自分の言葉のひとつひとつが、どこか、空々しかった。


ぼくは、母が以前気に入ったと言ってくれた、


ガーベラの花の絵を、


病室に飾った。


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ふと思い出したのが、


記憶が生まれたとき、いつも響いていた、リズミカルな足踏みミシンの音だ。


母は、いい意味でも悪い意味でも、もの持ちがよかったから、


世間に電動ミシンが普及し始めても、


足踏みミシンを使っていた。


ミシンに触れようものなら、いつもげんこつを食らった。


大人になっても、ミシンが怖くて、容易に触れられなくなったw


さんざん着せ替え人形をさせられて、不満を言うと、小突かれた。


それでも、小学校に上がる頃には、足踏みミシンは部屋からなくなり、コンパクトな電動ミシンにかわっていた。


きっと、サンタクロースが、あのぼろっちい足踏みミシンに呆れて、


母に、新しいミシンを、プレゼントしたのだと思った。


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去年、展示用に絵を描いた。


古い足踏みミシンの足踏みに、猫がちょこんと乗っている絵だ。


“ノスタルジア”と名付けた。


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八月も末、母の誕生月も終わろうとしている。



一年で一番母を身近に感じる月かもしれない。




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“青いカップと花” F0 油彩

“ノスタルジア” F4 パステル