本澤二郎の「日本の風景」(5227)

<日本がつくった尖閣危機=植草一秀解説>

「現実に論争が存在することを認めながら、この問題を留保し、招来の解決を待つことで、日中政府間の了解が付いた」(読売)と双方の知恵者が考えついたものが、国交正常化後の尖閣問題だ。鄧小平の知恵であろう。

経済評論家の植草一秀は、月刊誌「紙の爆弾」8・9月合併号で紹介しているが、全くそうである。いい意味での棚上げ論だ。ところが、2010年6月8日に発足した民主党の菅直人内閣が、あろうことか「尖閣諸島に関する我が国の立場は、尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題はそもそも存在しないというものである」と閣議決定。それまでの日中両国政府の合意を一方的に破棄した。背後の蠢きを知りたい。

 

筆者は気付かなかった。個人的にその理由があった。この年の4月7日、最愛の息子が東京・品川区の東芝病院に緊急入院、診断の結果、誤嚥性肺炎の治療で1週間の入院と決まったものの、入院数時間後に医師と看護師の予想外の患者放置という怠慢で、痰がのどに詰まって窒息死。院内での孤独死に衝撃を受け、数か月間立ち上がれない状態だった。

しかも、初歩的な看護ミスに東芝側から反省も謝罪もない。そのことで父親の精神は壊れかけていた。刑事告訴するほかなかった。息子の運命に悲嘆にくれる毎日だ。重過失の医師・看護師らへの怒りで、永田町の様子を監視する余裕などなかった。当時は、菅内閣の恐ろしい決断に気付かなかった。今振り返ると、菅直人の対応に怒りがこみ上げる。1年後の311処理もそうだったが、民主党政権も安倍内閣に準じてお粗末な政権であったことが分かる。看板を変えても駄目な政党なのか。

 

海上保安庁巡視船が閣議決定に即応したことも。尖閣周辺で中国漁船を追いかけ回すテレビ映像は記憶していたが。それも3時間に及んだ追跡劇。無防備の中国漁船を確保し、船長を逮捕するという暴挙に及んだ。明白であろう。日本が緊張をつくりだした重大事件である。「緊張がなければ緊張をつくるんだよ」との宇都宮徳馬の言動を、実に分かりやすく菅内閣は演じたのだ。市民派の菅を少しはましな政治家と思い込んでいたのだ、彼も現在の岸田と変わらないではないか。

それにしても、何ゆえの閣議決定だったのか。ワシントンの指示だったのか?これを新聞テレビはどのように報じたのか。

 

<民主党も安倍・清和会政治とそっくり>

民主党も自民党右翼内閣と変わりないのか。植草は、これのいきさつをウィキリークスが暴露していたと深堀り解説する。それによると、仕掛け人は「当時の国交大臣の民主党右派の前原誠司」。記憶に間違いがなければ、彼は確か北京滞在中、ホテルでいかがわしい行為を、公安警察に見つかった恥ずべき御仁ではなかったか。「北京の恥を尖閣で?」でなければ幸いだが、かなり怪しいものだ。

 

ウィキリークスの暴露は続く。党内右派や霞が関・ワシントンは、民主党鳩山由紀夫内閣の沖縄・普天間基地の県外移転計画を快く思っていなかった。

自立外交を目指す鳩山由紀夫内閣を、憲法ジャーナリストは大いに評価している。ところが同内閣の2010年2月2日、ワシントンの国務次官補のカート・キャンベルが来日し、小沢一郎と面会したあと、ソウルを訪問した。帰国すると彼は米国政府に対して「現在の鳩山・小沢ラインから菅・岡田ラインに変える」との物騒な報告をしていた。キャンベルは、小沢と会う前に前原とも面会していた。そのさい「小沢は相手によって話しの内容が変わるので注意してほしい」と進言したり、沖縄知事選にも言及するなど、怪しい動きを見せていた。前原はワシントンの犬だったのか。

 

案の定、5か月後にキャンベル報告通り、間違いなく菅・岡田ラインに移行している。鳩山・小沢体制を崩壊させるために、政府与党内のワシントンの犬たちと新聞テレビが連携した、鳩山おろしが見て取れる。鳩山の普天間基地の県外移転計画に与党内・霞が関・ワシントンと言論界が連携して、鳩山と小沢を罠にかけていた。それに検察も動員して!自民党の派閥抗争と同じような、ワシントンを巻き込んだ民主党内の権力抗争だった。

 

<尖閣漁船事件とウクライナ・ロシア戦争の手口>

植草は、ウクライナ東部のドネツク・ルガンスク両州で起きた内戦と収拾のためのミンスク合意、しかしウクライナが一方的に破棄したことにも言及する。対ロ強行派新大統領のゼレンスキーを誕生させるや、ミンスク合意を破棄して、プーチンとの軍事対決に引きずり込む。背後のワシントンの暗躍による準備が整ったことを意味する。まさにウクライナと日本の菅内閣の手口はそっくりである。

 

バイデンはNATOをまとめるだけでなく、その資金を日本の財布に委ねる。岸田がワシントン戦略に今も乗っていることからも理解できる。それに新聞テレビが宣伝し、ロシア叩きとウクライナ支援の合唱である。岸田も菅も安倍・小泉らと同じムジナだった。属国日本である。

 

ワシントンと民主党内の反鳩山の連携下、忽然と日本政府が尖閣棚上げ論を反故にすることで、日中関係は対立へ。菅・前原の野望に突き動かされるワシントンでもあったのか。財閥はむろん、ワシントンと菅・前原組に塩を送る。緊張・利権が転がり込む。その大金は決まって大衆の財布から絞り出される。国民総動員でウクライナ支援をしながら、中国を封じ込めていく。なんということか。

 

田中・大平の自民党護憲リベラルが、東アジアの平和と安定のために実現した日中友好の輪を、民主党がそして安倍と大平派・宏池会の岸田が破壊する!ワシントン主導の中国封じ込めの策略始動に、民主党右派と外務省右派が率先して飛び込んでいたのである。

 

<極右三文作家・石原慎太郎と偏狭な民族主義・松下政経塾の野田佳彦による尖閣国有化で日中破局>

緊張がなければ作り出せばいい、を地で行ったような尖閣国有化の最終稿を強行した人物は、安倍側近の極右の三文作家で知られる石原慎太郎と、菅後継内閣の野田佳彦。尖閣の国有化が決断し、日中関係は破局を迎えてしまった。無念の極みである。

大平正芳と田中角栄が命を懸けた日中友好は、砂上の楼閣だったのか。日中友好をライフワークにしてきた凡人ジャーナリストは、天を仰ぐしかないのか。

 

日中分断による政治的効果は、一つには改憲大軍拡を期待する偏狭なナショナリズムが列島を覆い、二つには財閥・軍需産業とカルト的宗教極右団体の日本会議を狂喜させる。三つめは自民党を制圧した神道政治連盟・神社本庁の国家神道復活も浮上させる。宗教右翼の台頭は、靖国神社を狂喜させ、戦争への道を突き進むことになろう。腐敗の自衛隊幹部らの靖国参拝の意味するものは何か。考えなくても分かる。対抗して中国は、強権の終身国家主席体制で対抗している。

 

日中友好はアジアの平和と安定の基礎である。その破綻は特に東アジアに不気味な緊張の網がかぶさる。既に愚かな岸田内閣によって43兆円の戦争準備が始まっている。防衛省は台湾有事のシナリオを繰り返し机上演習している。一触即発の日本海に追い込んでいるではないのか!

 

目の前の日中対決は、日本がつくり上げ、始めた戦後最悪の外交失政である。ワシントンは後方支援?野田の尖閣国有に拍手し、銃撃で倒れた安倍の追悼演説した因果は深い!!

2024年7月17日記(政治評論家)