本澤二郎の「日本の風景」(5121A)

<15世紀朝鮮王朝4代・世宗王の政治理念は「民の政治」>

この1週間韓流歴史ドラマ「大王世宗」にのめりこんだ。ざっと86時間。演出と実際との乖離は理解できるが、それにしても1440年代の中世の王さまの口から日常的に「民のための政治」が舞う朝鮮に脱帽するしかない。日本では室町時代以降と重なる。

 

中国の戦乱期に生まれた儒学が為政者の心得となった朝鮮社会には、明らかに階級差別社会で、平民にも入らない奴婢のような動物並みの人間も存在している。王政を支える重臣もまた、特異な階級社会で王政を揺るがしたり、不正腐敗を繰り広げている。

刀の支配だったのだが、朝鮮王朝4代の世宗は、父親の武断政治を否定して、民を主役にする文治を貫く。ここがすごいのだが、翻って今の日本の政府・議会・司法に「民のため」という観念がないか、著しく少ない。朝鮮の中世に劣りかねない日本政治が、あまりにも情けないではないか。もちろん、ドラマはドラマ。真実とは違う。そのことを割り引いても、朝鮮王・世宗の民のための治世と朝鮮民族の優れた政治と文化に驚愕を覚える。

 

<中国の明帝国との属国化に抵抗・自立した世宗王朝>

朝鮮の隣国は、当時は明帝国。あれこれと嘴を入れてくる。内政干渉は日常茶飯事だ。明は朝鮮の属国化に手を変え品を変えて圧力をかけてくる。屈服する重臣ばかりだ。これを跳ね返す世宗の執念の政治力も大変である。日米関係にそっくりではないか。

 

日米安保・日米合同委員会で四方八方締め上げられて、ワシントンの属国に徹しているような岸田内閣とは、天地の開きさえ感じる。軍事力で劣る朝鮮は、それでも外交でしのぎながら、決してひるもうとはしない世宗に拍手したい。

朝鮮史を知らないが、大きな歴史の真実の枠をはめたドラマに違いない。朝鮮民族の偉大さは、他民族に劣るどころか秀でている。

 

<モンゴルの元帝国・満州族の清帝国で漢民族は殺害・奴隷化>

中国のドラマを見ていて驚いたことがある。満州族の清帝国に敗れた漢民族の官僚は、清の王族に対して「奴才」と名乗ってから話始める。明代まで中国を支配してきた漢民族が、冒頭に「私は奴隷」という枕詞をつけている。つまり漢民族は清の奴隷になり切って仕事をしていたのである。

 

清の前の騎馬民族・元は、日本に二度も侵略を試みている。明を亡ぼす過程で無数の漢民族(中国人)を殺害している。清も同様に殺戮を繰り返すことで支配権を手にしていたのだが。

隣の野蛮な皇帝の内政干渉の下で、それでも朝鮮王朝が自立して生き残りを図った世宗時代は、あっぱれというべきか。繰り返すが、15世紀初頭の朝鮮で民が王政の政治理念だったことは、世界史上偉大な成果を残したといえる。当時の歴史書を日本人は学ぶ必要があろう。

そうしてみると、韓国の従軍慰安婦問題や強制労働に対する激しい怒りを知る。それは韓国の為政者・国民のみならず、司法官も、である。日本の極右の抵抗など相手にならない。

 

<漢字知らずの無知な民のためにハングル文字制定>

民の無知は、文字を読めないからだ。そこで世宗の民のために教養・知識を引き上げようとした大改革が、ハングル文字を制定したことだった。世宗の見識と実行力には、誰もが頭を垂れるだろう。すごいことである。

 

四書五経をマスターした神童・茅野村の松本英子にも驚いている凡人ジャーナリストは、彼女がその後に日本人最初の女性ジャーナリストとして、日本の公害の原点・足尾鉱毒事件取材で抜きんでた実績を残したが、結果としてその後の官憲の弾圧に屈せずに、単身渡米して、そこで国家として武器弾薬を放棄する非戦論を唱えた人類初の平和主義者となった。彼女の絶対的平和主義に対して、万感の思いで賛同したい。

 

安倍・清和会や読売新聞の改憲論など、軍閥復活に向けた財閥支援のための押し付け憲法論に笑ってしまう。武器弾薬で国民を守ることは出来ない。歴史の教訓であろう。

 

朝鮮の世宗王は、漢字が読めない民のために、誰もが読んだり書いたりできるハングル文字を制定し、王朝から無知蒙昧の徒を無くした。これぞ偉大な民主の革命的成果であろう。

彼らの子孫は語学に堪能である。日本語も英語も上手だ。

 

<倭寇の対馬征伐に占領せず、植民地化せずの見事な外交>

日本との関係では、対馬を根城にした海賊・倭寇に朝鮮半島の住民は、さんざん痛めつけられてきた。王朝は民のために立ち上がらねばならなかった。

世宗の対馬征伐は見事成功したが、決して占領をしなかった。植民地支配など論外だった。朝鮮半島の人たちが今も、開明文治の大王・世宗の人気が高い理由もわかった。朝鮮が生んだ偉大な政治家が歴史から消えることはない。

大王世宗は、中世における第一級の世界的指導者だった!

 

<天皇家の原始宗教・神道は大陸の道教がルーツか>

ドラマを見ていてなるほどと感じたことがある。日本の天皇のルーツが朝鮮半島であることは、大方の常識になりつつあるのだが、天皇と神道の不可分な一体化が、これまでの関心事だった。

中国の皇帝・朝鮮の王・日本の天皇は、まさに三国の関係を示している。朝鮮王朝の宗教が、道教であることが確認できた。天皇家の

宗教である神道は、道教の枝のような原始宗教だろうと推認できる。

敗戦直後の三重県警の警察のトップを歴任した内務官僚の渡辺一太郎は、連日、国家神道の根拠地である伊勢神宮を調査した。彼は「天皇家は半島出身の朝鮮族」と断じて、筆者に遺言して逝った。

 

朝鮮の百済から仏教が伝来した。大陸からも名僧が渡来してきている。道教は天皇家とともに渡ってきた。国家神道の戦前において、明治の廃仏毀釈運動で、何もかもが神道一色となった。戦後も尾を引いて今日がある。

 

日本人も賢くなる21世紀でありたい。

2024年4月1日記(反骨・反戦平和ジャーナリスト・日本記者クラブ会員