音楽の演奏を聴いて心地よく感じる要素として、「倍音」の存在をあげたが、私たちの身近な楽器は大抵、西洋で作られたもので、合奏を目的として設計されている。ギターであれ、ヴァイオリンであれたくさんの「倍音」を持っているが、「倍音」を聞かせるというよりはハーモニーのため、より多くの人に音を届かせるための設計、製造の果ての進化ものと言える。
A=440Hz 付近を中心に気持ちよく波が揺れるよう、オーケストラは個々の楽器をチューニングしていくが、一方、それ以外の世界中の民族楽器は、すこしネイティヴな印象を覚えがちだが、最初から目的が違っている。
原始人が太鼓たたいてわーわーと喜び、悲しみ、感謝、祈りを始めたのが、音楽のはじまりだとしたら、楽器の始まりはただただ「気持ちのいい音がするから」だけだったはず。
心地よいハーモニーや気持ちの悪い響きを巧みに使い、よりドラマチックな演出をする為に進化した音楽か、インド古典音楽のように、瞑想や祈りのために中心周波数付近の音の伸びや音量を殺してでも、「倍音」を強調するようになった、西洋とは全く逆の発想の音楽、楽器も存在する。
昨今では、インド古典でもその他の国の民族音楽でも、A=440Hz付近に合わせるかもしれないがオーケストラのように多種の楽器を大人数で演奏することなどないので、チューニングは全てインスピレーション、自由である。
オーケストラのための楽器、チューニング、譜面による再生と言う文化と、その時その瞬間その場所の誰かに向けての即興演奏という文化の違い。どこの国でもその文化の違いが音楽の中に見いだせるところがおもしろい。
日本の琵琶や三味線には「サワリ」というノイズに近い倍音が乗る仕掛けがあり、アフリカの太鼓や弦楽器にもアタックに呼応してノイズが乗る仕掛けがあったり、もっと身近な音楽ではアメリカで生まれたブルース→ロックでもアコースティックギターより丸い音のエレキギターの音を歪ませてノイズ化して高い方、低い方の倍音を強調したものなど様々。
現代ではインド古典音楽でギターも、ヴァイオリンも使われているし、西洋オーケストラのスネアドラムにも響き線(スナッピー)があり、シンバルもアタックに呼応したノイズともとれるので、変な線引きはできないが、音楽にとっての「倍音」がいかに重要かをここに示してみた。