わん・でぃっしゅ① | GIN@V6〜since20xx〜

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You've got the best choice!!

 

(アイツまた来てる)

 

 

最近、学校から帰ると、俺ん家の前にガキんちょがしゃがんでる

 

 

今日もウチの店の前で、いつものように犬のケージを覗いてる

 

 

ランドセルは背負ったままだ

まだ学校から帰る途中なんだろう

 

 

 

いつも決まって見てるのは、外に置いてある『差し上げます』の貼紙がしてあるケージ 

 

 

売り物の犬じゃなくて、店の前に捨てられてた雑種の子犬だ

 

 

 

もうそろそろ2か月になるのに貰い手が見つからなくて、その貼紙もだいぶ色褪せてきていた

 

 

 

 

隣の店の入口に差し掛かる

 

ガキんちょは、いつものようにスッと立ち上がって、小走りにコンビニの方に向かって歩いてった

 

 

いつものように、コンビニの手前の角で突然カキっと曲がって見えなくなる

 

 

 

 

最初は偶然だと思ってた

 

 

でも、決まって俺がここを通過するタイミングで、サッと立ち上がって逃げていく

 

 

絶対に確信犯だよな、コレ

 

 

コッチの方なんか全然見てねぇのに

アイツ、マジでセンサーか何か付いてんじゃねーのかと思う

 

 

 

いつも通り、ガキんちょが居なくなった後のケージの辺りを確かめる

 

 

別に悪戯してる訳でもない

 

 

悪い事してるんじゃねーんなら

逃げなくてもいいのに

 

つーか、そんなに子犬が気に入ってるんなら、お前が貰ってくれりゃいいのに

 

 

なんて思ってはいたけど

 

そのタイミングも、声を掛ける気も

俺にはなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は天気予報通り、午後から雨になった

 

 

俺は友達の用に付き合わされて、いつもとは違うルートでウチに帰った

 

 

 

(フッ、やっぱり今日も来てる)

 

 

店先にヤツの後ろ姿が見える

 

傘も差さずに、相変わらず店の前にしゃがんでいる

 

 

 

(お前…天気予報見てなかったのかよ)

 

 

いつも横から近づいて逃げられてるけど、今日は後ろから

 

それでもアイツのセンサーって反応すんのかな?

 

 

ふと思って、そーっと近づいて

面白半分、黙って真後ろに立って見下ろした

 

 

フッ…

どうやら、後ろと上にはセンサー付いて無いらしいな

 

 

 

「あ、おかえりー」

 

 

店の中からお袋が俺に声を掛けた

 

ヤツの肩とランドセルがビクッと跳ねる

 

 

あーあ、せっかくここまで近づいたのに

気付かれちゃったか

 

 

 

慌てて逃げようとしたんだろう

 

立ち上がったガキんちょが、すぐ後ろに居た俺の腹に体当たりで突っ込んできた

 

 

 

「「わっ!」」

 

 

ガシャン!

 

 

ひっくり返ったガキんちょのランドセルが、犬のケージに当たった

 

 

衝撃と音に驚いて、子犬がギャンギャン吠える

 

 

 

「あ…驚かしてごめん。大丈夫。もうしない。大丈夫だぞ」

 

 

子犬に向かって謝るその声は

 

想像してたより、ずっと小さくて、優しくて、可愛いらしくて

 

なんだか笑えた

 

 

(フッ…自分だって相当驚いてたクセに)

 

 

立たせてやろうと手を差し出す

 

「お前こそ大丈夫か?」

 

 

俺を見上げたガキんちょは、生意気そうな顔をプイッと背けた

 

 

お前な…

犬にはあんなに優しく声かけといて

俺は無視かよ。可愛くねぇ

 

 

 

「どうしたの?」

 

犬の声に驚いて、店の中からお袋が出てきた

 

 

「あら!2人ともビショビショじゃない。ちょっと中に入って待ってて」

 

 

俺達に声をかけると、タオルを取りに家に戻ってった

 

 

「コッチ来い」

 

 

また俺を見上げて直ぐに目を逸らしたガキんちょが、意表を突いて立ち上がった

 

 

逃がすか!

 

 

「待てって」

 

 

咄嗟にその腕を掴んだ

 

 

 

「痛っ!」

 

ガキんちょの眉間にシワが寄って、肩がビクンと跳ねる

 

 

「え?あっ…」

 

ハッとして手を離した

 

 

「悪ぃ。痛かったか?大丈夫か?」

 

 

俺が顔を覗き込むと

 

「…痛くない」

 

ガキんちょは腕を擦りながら、何故かバツの悪そうな顔して首を横に振った

 

 

 

(だ…だよな。そんなに強くは掴んでねぇし)

 

誰に言うともなしに、心の中でそんな言い訳をして

 

 

「ほら、入れよ」

 

もう逃げようとはしてないけど、ランドセルごと抱えるようにして、店の奥に入った