剛が口に入れてくれた
甘くて、懐かしい味
「美味い」しか言えなくて
ただ目を閉じた
溜まってた涙が…溢れる
剛は黙って汗と一緒に拭いてくれて…
あー……どうしよ、剛
剛が無事なら、それでいいって
自分なんかどうなっても構わないって
ついさっきまで、そう思ってたのに
俺さぁ…
生きたくなっちゃった
だって…剛に…
コレ買って、返さないといけないし
返して、またあそこで…
あの公園の変なオブジェの中で
半分食って、取り替えっこして
小突きあって
剛……俺、一緒に笑いたい
坂本くん達が車に乗り込んできた気配がする
車が走り出して
話しをしてる音がして
…剛が俺の肩を揺すってる
あぁ…でもなんだか眠いや
少しだけ…眠っていいかな
身体がスーッと沈んでいく感覚がして
音が遠くなって
何も聞こえなくなって
痛みも感じなく…なっ…て………
ここ……どこだ？
自分が目を瞑ってるのか
開いてるのかさえ分からないくらい
真っ暗な…深い…海の中みたいだ
俺は縮こまって丸くなってて
呼吸…してない？
けど、苦しくはない
何も見えないのに、ちっとも怖くない
手に触れてるコレは、なんだろう
足先が触れてるコレは…なんだろう
柔らかくて暖かくて、なんだか落ち着く
（おい、狭いって。もっとそっち行けよ）
…誰？
音じゃなく、頭の中に直接伝わってくる声
（なぁ、外出たら、一緒に遊ぼうぜ）
…外？
（うひゃっ、くすぐってー）
え？どうした？
わっ、誰かが俺のお尻撫でてる？
（なあ、そっち蹴飛ばしてみろよ）
え？ここ？
……えいっ
「あら、うふふ…今日はすごく元気ね」
壁を隔てた外？から
…聴いたことのある、優しい声
また誰かの手が、壁一枚隔てた外から
今度は俺の足を撫でる
「早く出てきて…待ってるから」
（出てこいってよ。しゃーねーな。ほんじゃ、そろそろ行くか）
行くって、どこに？
（外だよ外。おら、行くぞっ）
真っ暗闇が
だんだん薄くなってきて
夜が明けるみたいに白に変わってく
「半分よこせって…おまっ、食い過ぎだろ」
え？……剛？
ここ…公園…か？
「おい、狭いんだからもっとそっち行けよ」
そう、狭いよなこの中
なんで俺ら、いっつもここに居たんだろ
「寒みぃから、くっつけよ」
フッ…どっちだよ…
「健が一緒にいてくれれば、それでいい」
剛…あの時泣いてた
俺は、泣いてる剛にハグして…
あ……そっか
やっと分かった
あれは…多分俺が
俺たちが生きてきた中で
一番幸せだった頃の記憶
母の胎内で過ごした10ヶ月
ずっと剛と一緒で
生まれることを
生きる事を
望まれていた命
公園のオブジェの中で
俺たちは
あの頃を思い出してたんだ
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