WALK vol.71 | GIN@V6〜since20xx〜

GIN@V6〜since20xx〜

You've got the best choice!!


頭ん中の映像が消えてって


少しずつ視界がクリアになっていく



スゲー長い夢を見てたみたいだ


ここは…病院か?
10年前もこんな感じだったかな




あの日


10年前のあの日の記憶




健と約束してウチに帰ると、父ちゃんと母ちゃんがまた喧嘩してた


前はそんなこと滅多になかったのに…



その場に居たくなくて、早めにウチを出て裏山で健を待ってた


健をウチに連れてけば、きっと父ちゃんも母ちゃんもまた笑って健を迎えてくれる


喧嘩なんか終わる



随分待った気がして学校のグランドにある時計を見ると、もう約束の時間をとっくに過ぎていた


あいつが俺との約束忘れるわけ無い

もしかしたらまた…


早く行ってやんないと



急いで健のウチへ向かって走った


途中、車で迎えに来た父ちゃんとバッタリ会った



良かった、これで少しは早く健のトコ行ける
そう思ったのに


父ちゃんの様子がいつもと違ってる気がして
車の助手席に乗ってる母ちゃんに話しかけようとしたら、母ちゃんは寝ていて…


寝て…んだよな?


後ろの座席に乗り掛けてたのを止めて、振り返って見た父ちゃんは、ただジッと母ちゃんを見ていた



「乗れ」

それだけ言って、ドアを閉めようとしてる



怖い


瞬間、そう思った



「俺、あいつのトコ行かなきゃ」
車を降りようとしたのに


「ダメだ。乗れ」父ちゃんに押し返された



「健、きっとまた泣いてる。俺が居てやんないと。だから父ちゃん達とは行けない」


俺は父ちゃんの横をすり抜けて、掛けだした



「待て!」



俺の手を掴んだ父ちゃんの手は、冷たくて

いつものおっきくて温かい手じゃなかった



「嫌だっ。俺は父ちゃん達とは行かない」


手を振り払ったら、健に貰ったバングルが手首から抜け落ちた



道路を転がってくバングル



拾おうとして、追いかけて飛び出した道路に、クラクションが鳴り響いた



「剛!危ないっ!」


聞こえた父ちゃんの声


俺を照らしてたトラックのライトが、方向を変えて父ちゃんへ向かって突っ込んで、ウチの車ごとさらっていった





病院のベッドで目が覚めた時
俺はひとりぼっちだった


目の前にあるモノも音も何も頭に入ってこない
想いが言葉にならない



誰かが不意に俺の手を掴んだ


手首に感じた、冷たい感触



(怖い。嫌だ。行きたくない)


とっさに手を振り払った



バングルの転がってく音がする



健…どうしよう


俺ひとりになっちゃったよ
俺のせいなんだ
俺が大人しく父ちゃんについてってれば…


でも、ついてったら、健にもう会えなくなる気がしたんだ
健には俺が居てやらないと
そうだろ?健


声にならなくて、ただ涙が溢れた



遠くに、ぼんやり健の後ろ姿が見えた



健?


どこ行くんだよ
お前まで…居なくなっちゃうのかよ



追いかけたくても追いかけられなくて

叫びたいのに声が出ない




次に病院のベッドで目が覚めた時
俺は本当にひとりぼっちだった


いや、もともと一人だったのかどうかも
分からなくなってた

 





病室のドアがそっと開いて、誰かが入ってきた


瞑っていた目を開けて、その誰かを見る



「剛?目さめた?大丈夫?」


涙で少しぼやけて見えるけど、自分も病院の検査服みたいなの着てるクセに俺を覗き込んできた心配そうな顔…



「あ……健だ」


思わず口をついて出た



小さい『けん』と、目の前の健が重なって
一人になった



お前、あの『けん』だ


一緒に九九やって、保育園の先生に叱られて
お祭り行ってかき氷食った、あの『けん』だよ、お前


なんだ、健じゃん、お前…




「健……俺…覚えてる。全部。覚えてた」


手を伸ばして、俺を見下ろしてた健の体を引き寄せて、ギュッ
と抱きしめる



消えてなかった記憶のかけらが、バラバラ頭ん中に降ってくるみたいだ



ハハッ…お前がA4のコピー用紙に書ききれなかったの分かるわ


俺達、思い出がありすぎる



どうしよう俺

何から話していいか分かんねぇ


分かんねぇけど


「健」ってお前の名前呼ぶだけで
何だか、涙出てくるわ



やっと思い出した



健……


俺、ずっとお前に会いたかったんだ