ムカつく……
何でコイツこんなに落ち着いてんだ。
俺ばっかりこんな……なんかモヤモヤして
坂本さんが出てった喫煙ルーム
2人してベンチに座ったまま、三宅は白湯を飲んで、俺は若干ぬるくなったコーラを持て余してて
「あのさ、なんで……あ、やっぱいいわ」
「え?何?気になるんだけど」
フツーにニコニコしてるし
もしかして、また無かった事にされてんのか?
俺、すぐ逃げて来ちゃったからな…やっぱ何か言っとくべきだったか?
俺の事どう思ってる?とか……うわー無理…
いや、その前に俺がどう思ってるかだよな。
ところで、なんでキスしちゃったんだっけ?
チラッと三宅の方を見たら
「ん?」って唇をキュッと結んで、俺の顔、軽く覗き込んで
……なんだよ。見んなよそんな顔して。
またしたくなるだろうが。
いかんいかん。話を仕事に持ってこう。
「あー、あのさ、企画書、なんでBの方って?何か言ったっけ俺」
目は通したけど、その後三宅とほとんど話してないよな。
「さっき言ったじゃん。聞いてなかったのかよ?マルしてただろ?Bの方。やっぱこっちかなって俺も思ったから。違った?」
そういや、マル書いたな俺。ザッと読んで直感だったけど。
まぁ、三宅がいいと思ったんだから、いいか。
それに新人二人で、しかも初めて書いた企画案なんて入社試験の延長みたいなモンだろ。
「いや、あれでいいと思う」
「そお?じゃあ、見て貰って手直しして、あともうちょっとで完成できるかな」
もうちょっと?そう、もうちょっとで完成。
そして二週間だ。
二週間したら、自分のウチ戻るんだよな。
別に、一人になるのが寂しいとか、そういうわけじゃないけど
家の中に誰か居るっての、煩わしいだけだと思ってたから。今の生活、なんかいいんだよな。
「そろそろ荷物の片付けとか掃除とかしておかないと。週末はそれで潰れちゃうかな」
あっさりそう言う三宅に、やっぱり軽くムカつく。
「片付けっていえば、書類さぁ剛がバラバラなまま持ってっちゃったから整理しないと」
って立ち上がろうとして、「あっ…」って口押さえて
また『剛』っつったなお前。
「ごめん。馴れ馴れしいよね。気をつける」
「別にいいよ、それで」
ってか、名前で呼んでくれ……
「じ、じゃあ、俺も名前で呼んで貰おうかな」
は?えーっと……
「お前……下の名前なんだっけ?」
「今さら?それちょっと酷くね?」
確かに。悪ぃ悪ぃ。
今まで考えたこと無かった。
「俺のフルネーム三宅健。あのさ、社員証毎日首からぶら下げてんだけど」
「あそっか。健か、けん……」
しばらく考えて
「やっぱ三宅でいいわ」
「えーっ?なんでだよーっ」
「いいんだよ。三宅は三宅で」
照れくさいってのもあったし
なんだかよく分からないけど
『けん』ってのは
ちょっと大事にとっときたいような気がした。