WALK vol.3 | GIN@V6〜since20xx〜

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You've got the best choice!!

 

入社式の後、数日はオリエンテーション的なスケジュールで、会社の概要やら規則やら、どうでも良いようなことで潰された。


こんな話、黙って聞いててよく眠くならねーよなコイツら。

同期で入ったやつらは、みんな背筋を伸ばして真面目に話を聞いている。

 

俺の隣に座ってるコイツなんか、話しかけるなオーラ出しまくってるし。

 

安心しろ。俺は同期と関わる気なんか、さらさら無いから。


やってらんねー。いいから、早く仕事教えてくれよ。

ふぁーーー眠ぃ。

 


休憩時間、ふわーって欠伸してたら、後頭部を何かで叩かれた。


「あ?」

 

っんだよ。イテぇな。

 

 

「ちゃんと話聞け。森田」
 

振り向いたら、坂本さんが立ってた。


「あ、ちぃーっす」


一応、挨拶はした。


「『ちぃーっす』じゃねーよ。ちゃんと挨拶できねーのかよ」


隣に座ってたヤツも坂本さんに気付いて、立ち上がってお辞儀した。

 

「お疲れ様です。よろしくお願いします」


ふーん。なるほど。

それがちゃんとした挨拶ってヤツね。


コイツ、話しかけるなオーラ消えてるし。

ハッ…なんだ。俺に話しかけられたく無かっただけかよ。

 

 

「この後、人事の方から配属の話があると思うんだけど、お前ら二人俺の部下だから」

 


別に驚きはしなかった。

ハナっからそのつもりだったし、違ってても、いずれなんとかなると思ってた。


隣のヤツは、嬉しいんだか嫌なんだか分かんないような顔してる。

しかもチラッと俺の方見て、目があったらすぐ逸らしやがった。変なヤツ。


…なんか見覚えのあるような無いような……
三宅なんてヤツ、やっぱ思い当たらないから、気のせいか。

 


そもそも、昔の事なんてあまり覚えてねぇし。

 


心因性の何とかって医者には言われた。気付いた時には養護施設にいたし。


ところどころ断片的に思い出せるのは、職人気質だった親父の姿と、下請けだったウチの工場に出入りしてた親会社の社員。


あと…よく遊んでたアイツのシルエット。
つっても、名前も顔も覚えてないけど。

 

親会社の社員だったその人の、顔と名前だけは何故か覚えている。


『さかもとまさゆき』


小さかった俺にもちゃんと自己紹介してくれたその人と親父が、家で呑みながら、いろんな事を熱く語っていたのを、傍でずっと聞いていた気がする。

俺は、親父に認められてて可愛がられてるその人に、ずっと憧れていたのかもしれない。

 

就活中に何気なく見た 会社案内に、その人が写っているのを見て、俺はここに入ろうと決めた。

 

坂本さんは、俺のことなんか覚えてなさそうだったけど、それはそれで良かった。


昔のこと聞かれても、答えられることなんか無いし、変な同情とか抜きで、この人に認められたいと思っていた。


俺の、数少ない記憶のカケラの中にいる人に。