営業活動に中で、取引先のみなら関係者に

 

「進物」をお渡しする機会が多々あると思います。

 

何か、キチッとした行事の一環で、または会社の慣習で

 

用意した品物をお届けする時には、押しなべて

 

高価な箱ものを持参しますよね。

 

受け取られた方は丁寧なお礼を述べていただけます。

 

でも、ほんとにというか、心底喜んでいらっしゃると

 

思いますか。

 

他人の気持ちは計り知れませんが、自分に置き換えれば

 

すぐに分かります。

 

日頃、自分では勝って食べないような高価なお菓子を

 

頂いても、そんなに嬉しくないでしょ?

 

そうなんです。相手さまも同じです。

 

「あんぱん、ひとつ」

 

このエピソードは、今から40年余り前に目の当たりにした光景で

 

その後の私の営業の指針にしたものです。

 

『ある日、私が勤務する営業所に社長がやってきました。

目的は所員への激励と所内の視察です。

「次は工場を観よう」と巡回に同行していた私に告げ

スタスタと工場に入り、すぐ目の前にいたまだ入社一年の新人に

声を掛けました。

「どうや?慣れたか?無理すんな」

新人はビックリして仕事の手を止め直立不動の姿勢で答えました。

「ハイッ、まだ失敗ばかりですが、少し慣れました」

それを聞いた社長はニコッとして、背広のポケットから取り出した

あんぱんを新人に渡したのです。

「休憩時間にでも食べ」

新人君は両手で受け取りましたが、口を開けたまま口が動かず

お礼の言葉が出てきません。

社長はお礼の言葉なんかどうでもいいとばかり

「そんじゃ、会議室へ行こか」

と、その場を離れかけた時、やっと後ろから声が聞こえました。

「ありがとうございます!」』

 

後日談があります。

 

ある時、この新人君が心の底から絞り出すように言いました。

 

「私は死んでも社長について行きます」

 

あんぱん、ひとつ。絶大な力を持っています。

 

恭しく包装された、見るからに高価そうな品物より

 

「あんぱん、ひとつ」の方が、頂いた方は嬉しいのです。

 

何故だか解りますよね。

 

私はこの数十年、人様に進物をするときは必ずこのエピソードを

 

思い出します。