仁太劇場 「白の男 その1」 byニョロ
肌に心地よい風が吹いている。
風にはほんの少しだが潮の薫りがした。
その男はどのくらい前からか、ポツンと置かれたベンチに座ったままピクリとも動かないでいた。
風が吹いている、ただ眠っているだけなら風邪をひいてしまうかもしれない。
死んでいるなら、誰かが病院に、いや警察に知らせねば成らないのだが…。
風だけは吹き、時間だけが流れていく。
男がこの街にやって来たのは3週間前のこと。
ひとりっきりでやって来た…はずだ。
誰かとの約束。
この街には誰かと会う為に来た。
初めから男の記憶は曖昧だった。
誰と?
何処で?
川を渡ってやって来た気がするのだが…。
今と同じように潮の薫りをずっと嗅いでいた。
自分が何者なのか、それさえも分からない頭が真っ白な感じ、何処に行って何をすれば良いのか何一つ手掛かりに成りそうなものは身に着けていなかった。
ただ時々何か、何か閃光のようなものが頭のなかに飛び込む…。
真っ白な世界にぼやけた何かが見える瞬間。
男は必死でそれをつかまえようとしていた。
つづく
風にはほんの少しだが潮の薫りがした。
その男はどのくらい前からか、ポツンと置かれたベンチに座ったままピクリとも動かないでいた。
風が吹いている、ただ眠っているだけなら風邪をひいてしまうかもしれない。
死んでいるなら、誰かが病院に、いや警察に知らせねば成らないのだが…。
風だけは吹き、時間だけが流れていく。
男がこの街にやって来たのは3週間前のこと。
ひとりっきりでやって来た…はずだ。
誰かとの約束。
この街には誰かと会う為に来た。
初めから男の記憶は曖昧だった。
誰と?
何処で?
川を渡ってやって来た気がするのだが…。
今と同じように潮の薫りをずっと嗅いでいた。
自分が何者なのか、それさえも分からない頭が真っ白な感じ、何処に行って何をすれば良いのか何一つ手掛かりに成りそうなものは身に着けていなかった。
ただ時々何か、何か閃光のようなものが頭のなかに飛び込む…。
真っ白な世界にぼやけた何かが見える瞬間。
男は必死でそれをつかまえようとしていた。
つづく