風は来るはずだった。

約束のように、毎年、五月の空へ。

だが今年、竿の先で
鯉はただ、重さを思い出したように垂れている。
泳ぐことを忘れたのではない、
泳がせる何かが、来ないだけだ。

数というものは、いつも正確で、
だからこそ残酷だ。
削られていくのは未来ではなく、
いま、ここにあるはずの気配
笑い声の予兆や、
意味もなく走り出す足音の、あの軽さだ。

路地は広くなり、角は丸まり、
つまずくことさえ許されなくなった街で、
子どもはもう、危うさという名の自由を持たない。
安全は、やがて静寂に似てくる。
静寂は、いつしか不在と区別がつかなくなる。

誰もいない公園で、
砂場の道具が夕暮れに冷えていく。
使われなかった時間だけが、
そこに座り込んでいる。

未来という言葉は遠すぎて、
掌の温度を変えることはない。
ただ、いま触れている孤独だけが、
やけに確かな重みを持つ。

そして空。
広すぎる空の下で、
一匹の鯉が、風を待ち続けている。

それは祈りに似ているが、
祈りと呼ぶには、あまりにも力がない。