約束の映画 | 龍の巣~出来れば俺の人生リセットボタン~

約束の映画

彼は一人でそこに佇んで居た。


僕が中学生の頃、その事件は起きた。


常日頃から、通学路がピクニックコースな中学校まで通っていた当時の僕なんですが、その頃に今でも親交を持つ非常に仲の良い友人達がいたんですよ。
西川・小南・松井・福田と、たまに文章にも登場する奴等なんですが、とにかくコレに僕を含めた5人組みが熱かった。 そりゃ友人は他にもいたんですが、彼達と一番つるんでいた気がします。


もう皆さんオタクだったり、マッドサイエンティストだったり、一癖も二癖もある剛の物ばかりだったんですが、その中に一つの共通点として、みんなとある映画が大好きだったんですよ。
その映画というのは敢えて伏せますが、ハリウッド映画でした。


で、僕らが中学生の頃、その映画の続編が公開されたんです。
もうこれには僕らも狂喜乱舞。 皆で見に行こうという話が即座になされ、日程の段取りなどを即効で決め、今度の休みに早速見に行く事にしたんです。


でさ、そうなると一週間が物凄く長く感じるもんで、学校に行けば今度見るその映画の話ばかりしていました。
しかもそれだけでは留まらず、当時西川が作っていたHPの掲示板もそのネタで一杯になったんですよ。
いかに皆が楽しみにしているかが伝わってきて、僕自身も相当楽しみにしていたんですが、そんなある日、学校でボケーっとしている僕に、西川が顔を寄せ、小声で


「なぁ三龍、問題が発生した」


「あ? なに?」


「いや、三龍『佐々木』ってわかるよな…?」


とか言ってくる。 この佐々木、性格の悪さやヒステリックで過保護な母親を持つというスペックの持ち主で、学年内で大層嫌われている奴だったんですが、あまり他人に悪い顔をしない西川なんかは、たまに話たりもしていたらしい。
正直僕もあまり好ましくは思っていなかったんですが、その佐々木がどうしたよ? って話なんですが、西川が神妙な顔つきで話を進めます。


「いやな、今そこで佐々木に会ったんだけどさ、なんか佐々木が『今度の映画、何時に何処に集合?』とか聞いて来るんだよ。 俺達、あいつの事なんか誘ってないよな?」


「いや、これまでもこれからも一切誘うつもりは無いが…? なぜ奴が行く事を前提に話しているんだ?」


「多分、俺たちが話しているのを聞いて、来るつもりなんだろう…」


いや、まてまてまて、それはおかしいだろう!? いや、だってさ、別に今度映画行く奴等の中で佐々木と仲が良い奴は居ないんですよ。 少し酷い言い方かもしれないが、友達だとも思って居ない。
なにゆえにそんな奴が一緒に行く事になっているのか、甚だ疑問です。


いやさ、別に話聞いてて、一緒に行きたくなるのはいいよ? でもさ、別に自分にはお呼びがかかっていない。 そんな時は普通に考えて


「一緒に行ってもいいかい?」


ぐらいは聞かないか?
なんか佐々木の奴、色々な順番を凄い勢いで飛ばしてないか?
例えるなら、付き合っても居ないのに


「挙式はいつ挙げようか?」


とか聞くぐらいに、色々なプロセスをすっ飛ばしている。
奴は妄想型のストーカーか。
正直


「貴様なぞ知らんは!! 失せろ外道めが!!」


とか叫んで、一瞬でこの問題を解決したかったんですが、流石にそこまで無下に断っては酷すぎるじゃないですか。 それは傷つけすぎじゃぁないですか。
なんで、僕らは出来るだけ平和的に彼にご退場願うため、なにか良い手は無いかと無い頭を捻りまくっていました。


別に連れて行ってやってもいいじゃん? と思う人もいるかも知れませんが、人間誰もが誰もと仲良く出来る事なんて、神でもなければ不可能ですし、僕は神でもなんでもない、ただの卑しい人。
性格が不一致で、嫌いなタイプの人間もいます。
それが佐々木でした。


結局、佐々木にはご退場願う方向で皆の意見は満場一致となり、結果、佐々木には西川の体調不良によっての企画倒れを装うことにしたんです。
保険として、待ち合わせの場所の駅は一駅ずれて伝えておくことにしました。


で、時間は流れ、映画鑑賞の前日となったんですが、その頃西川のサイトで事件が発生。
なんかですね、佐々木が掲示板に登場し、明日の待ち合わせ場所や時間帯を聞いてきたんですよ。
そこで『Mr.空気が読めない男』松井が、何をトチ狂ったのか、その書き込みに普通にレスを付けてしまったんですよ。
その時、偶然管理人である西川も見ていたため、急いで消し、事なきを得たそうです。

その時の松井のいい訳が


「佐々木だと思わなかった」


ですからね。

気づくだろう、普通。


その夜、明日は大分早くから出かけるため、僕はさっさと寝たんです。 ほんと、遅刻する奴とか許せない、そんな奴は切腹すべきだ! と前々から思っていましたからね。 むしろ明日は一番乗りだ!!


朝方、「西川君から電話だ!!」 と親父にたたき起こされました。
うん、 すでにその瞬間に10分は遅刻してた。 切腹するべきだろうか?


もう大車輪の勢いで用意を整え、電光石火の速さで待ち合わせ場所である駅へと愛車のチャリンコを疾走させます。
で、僕は家の地理的な問題で、佐々木に伝えておいた駅前を通るんですよ。
しかしですね、昨日のうちに企画倒れを伝えておいたぐらいです。 居るはずもない。
とか思いながら改札口の隣にある、踏切を渡ろうとペダルを漕ぐ足に力を込めた瞬間、僕の視界はソレを捉えました。


佐々木が一人で立っていやがる!!!!


もうね、ビックリ。
いるはずの無い人間がそこにいるんですよ? これに焦らず、どれに焦るか。


その時、直射日光が大嫌いな僕は、サングラスをかけていたんですよ。
眩しい朝日に耐えかねて、似合わないのは百も承知でサングラスをかけていたんです。
そんな格好だからでしょうか、佐々木とは一瞬目があっただけで、僕もかなりの速度で走っていましたし、そのまま一時停止? なにそれ? な感じで線路を渡りきり、皆が待つ場所へと自転車を漕ぎ続けるのでした。


集合場所に着いたら、切腹まで一歩手前!! な雰囲気になるまで、こっ酷く怒られました。
特に西川なんて


「なんでお前の声はあんなにも親父さんの声と似ているんだ!! 電話に出た瞬間お前だと思って『今何時だと思っている』とか言っちまったじゃないか!!!」


とか烈火の炎の如くブチギレ。
知らんがな。


取り合えず落ち着きを取り戻した僕らは、皆に先程僕が見た光景を話すと、誰もが驚きを隠せない、なんとも言えない顔をしてました。


その後、皆で見に行った映画は、途中までが良かったものの、ラストが近年稀に見る程に破綻した、意味不明なものだったという災難。
やはり、映画で続編ともなるとロクな物が出てこない。


僕らの苦労を返してくれ!!