Nice Guy
彼はまさに猛者だった。
今日も今日とて社会の歯車として、体の不調? なにそれ?みたいなノリで働き蟻と化していた三龍さんなんですが、ちょっとばかし用があって秋葉原に出向いたんですよ。
しかしながら、2~3時間をその辺で潰さなくてはならない自体になり、夜の帳が降り始める秋葉原で一人孤独と戦いながらブラブラしてたんです。
秋葉原と言えばオタクの聖地。 オタク臭が満載なお店とかがあるんですが、普通のゲーム屋とかも勿論ある訳で、ほら、良くあるじゃないですか。 お店の前とかに最新のゲームなんかのデモムービーや体験版が出来るスペースが。
その時もそんなスペースを見つけ、更には「龍が如く2」という、前作がしたくてしてくて堪んないのに、時間が無い上金が無い。 それよりなによりプレステが無いという、不のスパイラルに陥っていて出来なかった。
というゲームの新作デモが流れてる。
「こりゃぁイイ感じだ。 なんせ舞台になった歌舞伎町にデカデカと看板があるくらいだからな」とか一人で関心しながら、「スゲェスゲェ! やりてぇ!! 前作から通してやりてぇ!!」とか叶わぬ夢を追い続け、トランペットのショーウィンドに張り付く黒人の少年みたいに目を輝かせながら見ていました。
するとですね、なにやら横でガジガジ聞こえてくるんですよ。
なんか視界の端っこに激しく上下する影が見え隠れするんですよ。
もうね、何事かと。 関東の龍と関西の龍がどうなるのかユックリ見させやがれ! なんて憤慨しながら未だに上下し続ける影を直視してみたんです。
まぁね、驚いたわ。 もう少しで腰抜かしそうになったわ。
いやね、なにやら上下黒の野暮ったい格好して、白髪の混じった髪を肩辺りまで伸ばした20代ぐらいのオタクっぽいお兄さんが膝をカックンカックンしながら凄まじい勢いでボタン連打してやんの。
もうこれには常に冷静沈着臨機応変な三龍さんも驚いたよ。
なんかお兄さん、分厚い眼鏡かけてるんだけど、その眼鏡の奥の瞳が明らかに逝っちゃってたからな。
ヘタなヤク中よりカッ飛んだ目ぇしてた。
もうそれだけでご飯三杯はいけるんですが、このお兄さん相当な修羅場を潜っているようで、それだけじゃぁ済まなかった。
お兄さんがやっているゲームってのが「GOD HAND」っていうアクションゲームで、僕もかなりやってみたいゲームだったんですが、それをプレイしながら唐突に
「この馬鹿が!!」
ですとか
「ぶっ殺すぞ!! なにやってやってんだ畜生!!」
とかそれはそれは大声で叫び始めるんですよ。
いやね、自分の家でやるには全然構わないと思いますよ? しかしながらココは人通りが多い一般道に面した公道。 そんな所で突然叫ばれたらビビリますよ。
しかも僕みたいなチキンなんて、自分が言われたのかと、胸のDOKI☆DOKIが止まんないですよ。
マジ勘弁してくれ。
しかし、そんな僕の願いも虚しく
「この野郎!! おいテメェふざけんな馬鹿野郎!!!」
とか叫び続けてるんですよ。
もう見てらんない。 だって道行く人皆が振り返るんですもん。
隣に立ちながらデモ見てる僕まで変な目で見られるじゃないか。
隣の新装開店の店前で立ってるオジ様まで、さっきから凝視してるじゃないか。
しかもですね、このお兄さん、いや、その雄々しいお姿に尊敬と畏怖の念を込めて猛者と呼ぼうじゃないか。
まぁその猛者なんですが、あまりゲームが上手と言う訳じゃないみたいで、たまに苦戦するんですよ。
そうなった彼は止められない。 まさに暴走エクスプレス。
主人公が敵に殴られて倒れたりすると
「馬鹿がテメェよぉ!!」
や
「おい! このっ! なにやってんだこの馬鹿が!! 畜生この野郎めが!!!!」
なんて物凄い勢いで叫び始めるんです。 彼には羞恥心というものがないのだろうか?
てゆうかな、猛者。 その主人公を操作してんのは、他ならぬ猛者自身だ。 それを画面上にいるキャラに怒鳴り付けてなんの効果が得られる? あれか? 猛者はレースゲームとかでカーブの時に自分の体も動かすタイプか?
なんて考えながら、少し距離を空けて観察していたんですが、もう笑いを堪えるのに必死だった。
猛者の叫びをメモしてたんですが、メモを取る指先がプルプル震えてたからな。
で、なんとかそのステージをクリアして、次のステージに向かうためのロード画面になったんですが、その瞬間、猛者の野郎が「フン、どんなもんだい」みたいな表情作って、鼻の頭をピン! と刎ねたんです。 雰囲気的にいうとブルース・リーが唇を刎ねる感じ。
もうね、声を押し殺すのに精一杯ですよ。 新装開店の店のオジ様まで肩がプルプル震えてたからな。
僕かて痙攣してた。
そんな荒ぶる神々の様な神々しさを放つ猛者。
しかし、相変わらずゲームは下手。
そんなもんだから、遂に猛者も敵の袋叩きに合い、あえなくゲームオーバー。
その瞬間猛者の怒りが大爆発!!
「馬鹿がテメェ亜qwせrftgyふじこlp;@:じゃねぇよ!!!!!!!!!」
と大激怒、狂おしい程に大激怒。 途中で何言ってるかわかんなかった。
「これはもう、暴走機関車とかした猛者が千切っては投げ千切っては投げの大立回りを演じてくれるんじゃなかろうか!!」と僕の興奮もボルテージに!
しかし、次の瞬間タイミングを見計らっていたであろう店員が颯爽と現れ
「申し訳ありません、お静かに、お一人様ワンプレイでお願い致します」
と猛者を注意。 しかも有無を言わさず即リセットボタン!
もうそうなっては流石の猛者も憮然とした面持ちながらもその場を離れて行きました。
夜の町に消えていくその背中が、まるで去り行く老兵の様な雰囲気を醸し出し、僕に盛者必衰という言葉を思い出させてくれました。
まぁ正直、そんな良いもんじゃ、むしろ最悪に部類される格好悪さだったけどな。