帝国ホテルの旗艦ダイニング、フレンチの「レ・セゾン」が、「Le Style Thierry」とシェフの名を冠して「今までにない最高の朝食」というのを始めた。
就任から10年になるシェフ、ティエリー・ヴォワザン氏のスペシャリテ(朝食で使う言葉か?)をコースで提供する朝食。お値段、サービス料抜きで1人前9000円。
異様に高いが、ヴォワザン・ファンとしては、一度味わってみたいところ。
えいっ!とばかりに予約を入れて行ってみた。
しかしながら、食べてみての感想は、期待に反して大したことはない。「最高の朝食」は言い過ぎで、「ああ、また食べたい」と思うものではなかった。
土井たか子ではないが、シェフのファンであっても「ダメなものはダメ」である。

まずがっかりは、このヴィエノワーズリーとバゲット。
レーズン入りの「デニッシュ」と言った時点で、興ざめ。
クロワッサンもバゲットもレベルには達しているが、四万十川の川海苔バゲットみたいな一工夫はできないものか。
コンフィチュールも、凡庸。イチゴとリュバルブ、マーマレードにバニラビーンズ、ともに驚きがない。フランスの三ツ星レストラン・オーベルジュは、こんなもんだったか?

料理はまず、「黒トリュフのスクランブルエッグ」。
Oeufs brouillés としては正しい造り。しかし、トリュフがどうにも香らない。瓶詰品だから当たり前か。ならば無理せず、トリュフを別の何かに差し替えれば良いのでは?冬のオンシーズンだけ出せばいいように思うが、そうすると9000円では収まらなくなるのか。

2品目は「瞬間燻製で仕上げた富士山麓の鱒」。
実にうまそうに見える。が、食べてみると、どこか寝ぼけた味わい。
店員は「ミキュイ」だというが、変に生暖かく、芯までぼんやり火が通っている印象。ミキュイと言えば、タテルヨシノのサーモンを想起するが、あれほどの完成度はない。
おまけに、鱒の皮が異様に硬く、肉切ナイフでないと切れない。鮭も鱒も皮が好きだから残さず食べる派だが、これは口に入れても噛みきれない。
おいしかったのは、むしろ付け合せのポム・ピュレ。上は鱒子の他に、オリーブオイルを粒状にしたもので、これが香りも食感も面白かった。

コース仕立てのメインは、「緑茶と昆布でマッサージされた沖縄のアグー豚ロース」。
ちゃんとしたソースもかかり、豪華さは文句なし。
外側にまぶされた緑茶と昆布の香りも利いている。
脂が美味いアグーだが、白身の部分は普通のボンレスハムのような食味で、あまり特別感はない。

食後はまずチーズ。「2011年夏より熟成されたコンテチーズ」。
ランチで食べたことがあるので、「またか」の感があるが、しかしこのコンテ、さすがにうまい。

マンゴーかベリーかで選べるヨーグルト。
朝飯とは思えない満腹度ではあるが、「すごいのを食ったな」という食後感ではない。
まだまだ朝食らしい料理で、もっとやれることがありそうな気がする。
少なくとも、デニッシュだのバゲットだのは、もっと気合いを入れろと言いたい。ご自慢のブリオッシュにしても、「ブリオッシュ・ドール」(フランスのつまらぬチェーン店)に負けそうなレベルであった。
ジュース類も、オレンジとグレープフルーツだけが生絞りで、あとは瓶入りのネクターというのもいただけない。
「最高の朝食」は今のところ看板倒れ。もっと上を目指さないと、9000円も払うリピーターは現れないであろう。