ふぐ料理屋などは、夏場はおこぜなどでしのぐか、いっそ店を閉めてしまうところもある。
野鴨の御狩場焼きなるものを名物にしている店なんかだと、春から秋は誰も話題にしない。
その点、飼育の鴨をウリにした「トゥール。ダルジャン」は頭がいいと言うべきか。
キノコの名を冠した代々木八幡のフレンチ「シャントレル」は、秋冬にその真価を発揮する店だ。
レジス・マルコン直伝のキノコ料理が味わえる寒い季節が、今から早くも待ち遠しい。
しかし、初めてシーズンオフの春(というか気候は初夏だが)に行ってみたが、なんのなんの、美味いモノがちゃんとそろっていたから立派なものだ。引き出しの多いシェフに、大いに感心した。

いつものアミューズのあとに、定番のキノコ茶。スープだ。
少々香りが細く、口に含むと甘みが先行してくる。
この時期は、乾燥物を多く入れるのだとか。
そういわれても、毎度のように飲み干すのが惜しくなる。

銚子の鰹のブルスケッタ。
さっぱりとした赤身に、しっかりめのスモークで香りと味のひっかかりをつけている。

姫ホタテと姫さざえのブルギニヨンバター焼き。
突如カフェっぽい料理になったが、無味のでんでん虫よりは魚介の方がマシである。

玉ねぎのムースにウニ、さらにトマトのジュのジュレ。
初夏らしい一皿。ジュレがコンソメだと良くある料理になってしまうが、酸味が心地よいトマトのジュだと、下の玉ねぎの甘さまで引き立つ。

稚鮎、桜えびとトウモロコシ、ドラゴンフルーツの芽のベニエ。
良くある稚鮎の揚げ物だが、これに塩レモンのコンフィをつけると、ぐっと引き立つ。さらに柑橘系が香る白ワインをやるとたまらない。
ドラゴンフルーツの芽というのは初めて食べたが、姿はみょうが、食べるとオクラのような粘り。親玉も不思議な味だが、芽の時はさらに妙である。

チエドのスモークサーモンとドライにした田芹をまぶした白アスパラ。
サーモンの上にのせた河内晩柑で爽やかな苦みを加味。同じく苦みただよう田芹の使い方も面白い。ひとかけら添えた水ナスも初夏らしさが漂う。
サーモンは、キノコと並んでシェフの得意食材といってよいだろう。

白いかのソテーになめことアスパラ・ソバージュ。下にはソースの役割を果たすフルーツトマト、そして木の芽を少々利かせている。
和の風味もわざとらしくなく添えてあり、全体の味の構成の中で合理性がある。

グリーンピースと空豆のスープに魚介いろいろを入れたもの。
この時期、これでもかと魚介で攻めてくる。
マメたちの青々とした風味があさりなどとマッチ。

さらに魚料理、めぬけのブレゼ。下にはシャンピニオン・ド・パリなど。
癖のない白身は無地のキャンバスのようで、コクのある出汁が引き立つ。

メインは、オランダ産のリー・ド・ヴォー。
シェリーと白ワインのビネガーのソース。アスパラ・ソヴァージュ再びとシャントレルが少々。
ねっとりとくるリー・ド・ヴォーに、ダブル酢の酸味が喝を入れている。
ここまでずっと魚介だっただけに、リー・ド・ヴォーまでタラの白子かと勘違いしてしまいそうになる。
いや、とにかく量・品数もたっぷりなお任せコースである。
季節感あり、味の変化もありで、食べていても飽きがこない。
「次回は仔羊」と予告を受けたので、行かねばならぬ。
夏も楽しみなキノコの名店である。