ヒロヤ(Hiroya) 青山 | 御食事手帖

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主に東京と湘南で食べ歩き、でも美食のためならどこへでも旅するブログ

和と洋の融合は、たやすくない。

フランスでもイタリアでもスペインでも、高級店ほど日本食材、和の要素を取り入れることに熱心である。出汁だの味噌だのを使えば、手っ取り早く、目新しい料理に仕立てることができるからだろう。
それらを食べたことしばしばだが、多くは野暮ったいレベルで終わっている。
和食材の味や香り、風味を、料理人がきちんと咀嚼できていないからだろう。
つまりは、理解が未熟なのだ。ハンパなことはするなと言ってやりたい。

荒木町にオープンしたフレンチ割烹「ドミニク・コルビ」も試してみたが、グルメ出版業界人が絶賛するような感動は得られなかった。在日歴が長いシェフでも、「和仏の融合」までには至っていない。グリビッシュソースにゆず胡椒とか、アイデア創作料理の域に留まっているのだ。

洋の料理に和を取り入れる術に長けているのは、当たり前かもしれないが日本人の方だろう。
先達の料理人を挙げればきりがないが、最近行った中では青山の「ヒロヤ」は、とてもいい線をいっていると思う。
和に寄り過ぎているかもしれない。が、折衷に無理がないのだ。「良いところ取り」が成立している。



前菜は、牛ランプ肉とアボカド、海苔の食べ合わせ。
つかみどころのない料理名で、見た目も和食そのもの。
しかし、ビネガーやオイルの使い方はきちんとしていて、食べると洋を感じる。
岩のりのヨード感や香りとも違和感がない。ワインでも日本酒でもいける。


料理名は「海老と豚足」とそっけない。
細かく刻んだ豚足のねっとり感と、菜の花の苦み、海老の甘みが混然。
揚げたコメとともに、海老の濃い出汁をすすると、実にうまい。
海老出汁の取り方は、きっと仏式なのだろう。



この2枚で、「すっぽんの色々な仕立て」。
ココットの中には、すっぽんの前足の肉、それにタケノコ、フキ、セリなど春野菜がいろいろ。
すっぽんブイヨンがよく行き渡り、丸鍋とはまた違った味わい。
先日、銀座の「タテル・ヨシノ」で食べたすっぽんの海亀風も素晴らしかったが、ここのは値段が違うので比較しても意味がない。

フライになっているのは、エンペラ。サクサクとゼラチンのコントラストを楽しむ趣向。


魚料理は、ヤリイカと豚のど肉、野菜のファルシ。
やっとフレンチっぽい料理名が登場。ブリブリのイカに、ねっとりしたのど肉、しゃきしゃきの野菜という組み合わせの妙。フランスでの修行歴に裏打ちされた技術も伝わってくる。


締めは、煮込んだ牛タンとアスパラガスの炊き込みご飯。
アクセントの木の芽が、これもすんなり溶け込んでいる。欧州人がよくやる、とってつけたようなわざとらしさがない。揚げ米を混ぜて、食感をひねるのも、細かい工夫。
なにより、全体として味にまとまりがあり、一皿の米料理として調和がとれている。


アラカルト形式で調理が1人なので、混みあうと皿だしが遅くなることもありそう。
ざっくばらんなカウンター・ワインバーのような店内だ。
しかし出てくる料理はしっかりしていて、また食べたいと思わせる。
それでいて、お支払はドミニク・コルビの半額で済む。
私は強く、ヒロヤの方をおススメする。