姿に似合わず、味には品がある。
このギャップこそ、すっぽんの魅力ではあるまいか。
食を知らぬ人からすれば、単なるゲテモノ。
しかし、ひとたびその旨味を知れば、高い値段も厭わない。
そう考えると、すっぽんを知るというのは、幸か不幸か・・・。
この「勢きね」のすっぽん料理も、うまいが高い。
ただ、不当だとは全く思わない。値打ちがあるから。
偉そうにいうほど、すっぽんを食べこんだわけではないが、今のところここ以上の店を、私は知らない。
コースの初めに、フキノトウ味噌、空豆、天然のヒラマサ。
フキノトウ味噌のすがすがしさと苦みが素晴らしく、キューッと飲める。
もう一つの看板料理であるウナギが少々入ったうざく。不味かろうはずがない。
酢の加減が絶妙で、毎度飲み干してしまう。
肝各種が刺さったすっぽん串焼き。
これは本当にうなってしまう。脂があるのに、臭くない。肝なのに、苦くない。
濃厚な味わいながら、澄んでいる。軽く山椒をふると、ピノ・ノワールに実に合う。
この唐揚げが、また絶品。
前腕のあたりの塊なのだが、ゼラチンはグニグニとし、肉はミシっと目が詰まり、表面はカリッとしていて、その食感は多彩だ。何より、噛みしめて口に広がるエキスがたまらない。
コースのこの時点で、「また来たい」との思いを強くする。
たっぷりの丸鍋。
フランス料理では、ウミガメのコンソメというのがあるが、いずれのカメにも共通するのは、力強いのに上品、という点であろう。
エンペラや肉は、この出汁の付属品のようなものであり、味わう主眼は汁。啜るたび、うーんと声を出してしまう。
最後の雑炊で、再度すっぽんのエッセンスを味わい直す。
服部中村養鼈場のすっぽんはやはり別格なのか、それとも店主の腕がいいのか。
いずれにせよ、雑炊をもって満足感はピークに達する。
すっぽんを知ってしまったことは、やはり不幸である。
こう書いている今にもまた食べたくなるのだが、それは経済的に叶わぬことだから。