




四谷三丁目の裏小路という立地。
たまたま通りがかって、ぶらっと入店する人は、まず皆無でしょう。
店頭にでんと停められたイタリア・スクーターが、店主の伊国愛の強烈さを物語っています。
店内のインテリアもイタリア一色。
流れる有線放送もイタリアのラジオですから、徹底しています。
そんなお店の料理。
コースなどはないようで、アラカルトの注文となります。
旬の食材をストレートに味あわせる料理が、いろいろと目を引きます。

初手は、7色のトマトとブラータチーズのサラダ。
まず、プーリア産のブラータが抜群にうまい。
「チーズとトマトを切っただけじゃん、こんなの料理じゃない」と思ったあなたは、残念な人です。
甘さと酸味、食感でバラエティーがあるトマトたちと、このミルキーなチーズは本当に良く合います。どちらもただの素材にすぎません。が、それを組み合わせて一皿に盛ることは、まぎれもなく料理でしょう。そしてこれは、その辺のカプレーゼなんぞより、はるかにおいしい。

こちらは、揚げたカルチョーフィ。
二つ割にして、芯やじくを食します。
芯はほのかに甘く、じくは青く苦い。花弁の焦げたところは、香ばしくも苦い。
アンティーチョークをシンプルに味わうこの料理、シーズンに一度は食べたくなります。

さらにいよいよシンプルな、ヤングコーンの焼いたもの。
「これはイタリアンなのか」という根本的な疑問がわいたあなた、確かに私も疑問です。
しかし、パプリカを焼いてオリーブオイルをかけただけでも、立派なイタリアンですからね。
いや、料理かどうかは横に置いて、これもまた食ってうまいもんです。
炭塩がコーンの甘さをぐっと際立たせます。

パスタは、海老とイカのトマトソース、赤オレンジとレモンが入った「南の島風」。
ぶっといマカロニに、甘酸っぱいトマトソースがからみ、暑い一日を締めくくるのにぴったりの爽やかさ。オレンジピールの苦みのせいでしょうか、ピノノワールの赤ワインと良く合います。
イカや海老とパスタをフォークに刺し、レモンにぐっと押しつけてから頬張ると、いくらでも食べられそうな気がします。

メインもシンプル。
短角牛のリブロースです。ソースもへちまもなし。塩で食らえ、ということです。
赤身が生々しい状態で、叩きを食べているような感じ。
キアナ牛とは差があるにしても、これはこれで悪くありません。
添えたアスパラも、そっけないですね。でも、みずみずしくて、とても甘い。
とにかく、良い素材を集めているのでしょう。
これらシンプルな料理、お勘定は大変リーズナブルです。
コース主体のこじゃれた店でえらくぼったくられることしばしばですが、ここは安心です。
四谷三丁目は良い店が多いなあ、と改めて思う1軒でした。