種類豊富な8000円のプリフィックスは、2度目でもハズレが見当たりません。
「傑出」とか「斬新」という言葉はあてはまらないでしょう。
基本に忠実で、安定感があり、多くの人に好まれる料理――。今のところ、そんな風に感じます。

前菜として「海の幸をサラダ仕上げ 黒トリュフドレッシング」。
結構、ゴージャスです。
スライスしたホタテ、赤座エビ、オマール、ひらめ入り。
ブリっとした食感のオマールは、程良い甘みがドレッシングの酸と良く合います。
赤座エビは、軽くポシェしたのでしょうか。足がはやい海老なので、淡い調理だとアラが目立つのですが、ここのは鮮度もちゃんとしていました。
トリュフェの具合から考えると、次は熟成したシャンパーニュに合わせてみたい料理でした。

魚料理は「舌平目のグラタン“貴婦人仕立て”」。
普段、この種の料理は、まず頼みません。
が、あえてこの店のクラシック度を検証してみたくて注文。
お手本のようなサヴァイヨンソースです。
舌平目という、たいして旨くない魚に、乳脂のコクとミルキーな甘やかさを加味。
白いキャンバスのような素材に、優しい絵筆を走らせています。
熱々の皿からすくって、フーフー言いながら頬張り、余韻の残ったところに白ワインを流し込む。
ちゃんと作れば、ちゃんとうまいソースです。
「貴婦人仕立て」なんて、古式蒼然たる料理名ですね。古臭いと思われる方もいるでしょう。
私は、あるフランス人批評家の言葉を思い出しました。
「料理は何よりまず芸術であり、進歩という考え方は芸術とは相容れない。ブーレーズ(フランスの現代音楽作曲家)がモーツアルトより創造的かと言えば、違う」
ここのシェフがモーツアルトだと言っているわけでは、全くありません。
ただ、料理におけるクラシックとはなんぞや、と考える時、この例えは示唆に富んでいます。
と同時に、私たちが、料理という芸術を前にして、いかに軽薄で、ミーハーで恥知らずかということを思い知らせてくれます。
さてメインは、子羊のローストを注文。
これは本当に、シンプルなローストでした。写真がなくてすみません。
調理の問題とは別に、欧州以外の産地の子羊には、多くの場合、香りの気品において限界があります。
シンプルな調理だと、その欠点が明確になります。やはりある程度、主張がはっきりしたソースの力は必要かと思います。

持ち込んだワインは、2本。
白はカリフォルニアのシャルドネ、ランドマーク1996年、ダマリス・レゼルブです。

去年35ドルで購入しましたが、もっと買っておけばよかった・・・。もう手に入らないでしょう。
今飲んで、おいしい。非常に複雑な香りと味です。
色はけっこう濁っていました。柑橘、トロピカルフルーツ系に、焦がしバターや炒ったナッツの香り。意外と酸が残っていて、上質のミネラル感を伴って締まりがあります。
「貴婦人仕立て」ととても良い相性。
赤は、アローホのエイズリー・ヴィンヤード2000年。
オフヴィンテージなので安く手に入りましたが、値段なりでしょうか。
アローホにしては控えめで、強い凝縮感やマッチョなところはありません。
ブラインドでなら、ボルドーのボトルの中に混ざっていても、気が付かないでしょう。
今飲んで問題ありませんでしたが、余韻に伸びがなく、物足りなさを感じました。
次回は、シャンパーニュとローヌの古酒を持ってうかがい、古典的なメニューをさらに味わってみたいものです。