梅雨前、東京多摩地域の墓地に行った。
車で向かった。
読経を依頼されたのである。
寺に勤めている。
だから、寺のお堂や境内墓地で回向を行うことは多い。
ただ、他の霊園に墓所をお持ちの信徒さんもいらっしゃる。
(順調だったな)
約束より1時間前に着いた。
まずは、墓地の場所を確認する。
それから少し離れたところに駐車し、車内にて休んでいた。
(あ、え、い、お、う)
口を大きく開ける。
(ん~)
ハミングをする。
再度、声を出す準備をしておく。
(ガチャ)
すると、突然ハッチバックドアが開いた。
(なんだ、なんだ)
反射的に後ろを振り向いた。
70才くらいのお爺さんがたっていた。
「何ですか?」
思わず声が出た。
「あっ。すみません」
お爺さんは、ドアを降ろし去っていった。
水桶を手にしていた。
周りにとまっている車はない。
(間違えた……、ようでもないな)
なんだったのだろうか。
梅雨が開けた。
今回も多摩地域の墓地に行った。
ただし、この前とは別の霊園である。
ご回向を終え、園の出入口付近に車をとめた。
帰り道の状況をナビにて調べていた。
(ガチャ)
すると、突然左後部ドアが開いた。
(なんだ、なんだ)
反射的に後方へ首をまわした。
「はぁ~」
声もきこえてきた。
60才くらのご婦人がいた。
70センチくらいの刈り込みバサミを手にしていた。
(えっ……)
声が出なかった。
「まちがえた。ごめんなさい」
ご婦人は「ドン」と勢いよくドアを閉めた。
横に進む。
数台先の車に乗り込んだ。
同色の車だった。
しかし、あちらはセダンである。
こちらはハッチバックである。
つまり、形状がちがうのである。
(ふ~)
かなり動揺した。
ご婦人の乗ったくるまが、こちらの前を通って園を後にしていった。
すれ違いざま、ご主人らしき方が会釈をしていた。
(予想外のことが、いろいろとあるな)
二度あることは三度ある。
これからは車内で休んでいるときも、施錠をしておいたほうがよいのかもしれない。
法然上人のお言葉です。
『(法然上人が)また、あるひとに教えておっしゃったことば。「人の命は、おいしいものをぱくぱく食べ、喉につまって死ぬこともあるものだ。だから、南無阿弥陀仏と噛んで、南無阿弥陀仏と、ぐっと呑みこむがよろしい」』
【ちくま学芸文庫 一言放談 小西甚一校注P39】
ありがとうございました。