先日、あるお寺さんへ雅楽演奏の為に伺った。
雅楽の仕事をいただけるのはとても嬉しい。
15年程前、今のお寺に勤めはじめた。
同時に龍笛(りゅうてき)の稽古を始めた。
龍笛は雅楽楽器の一つである。
(自信を持って儀式を行えるようになりたい)
そのような目的を持って本山(ほんざん)の稽古に通い始めた。
本山とはその宗派の中心となるお寺である。
今回は、なんと龍笛の音頭(おんど)を仰せつかった。
音頭とは、初めの30秒程を一人で演奏する役である。
とても名誉なことである。
が……。
数日前から眠りが浅くなる。
緊張のためである。
当日も解けることはなかった。
(これだけ備えてきたんだから)
そう考えてみても効果はない。
しかも……。
(えっ?)
演奏者15人で驚いた。
お寺に到着すると、もの凄く強い風が吹いていたのだ。
その日の演奏は屋外でおこなうことになっていた。
(風であおられたらどうしよう)
以前、とても上手な先輩が風の影響で演奏に乱をおこしたことがあった。
笛の穴から風が入り込んできたためむせたのである。
(あぁぁ)
思い出すとますます緊張してしまう。
支度を終え、まもなくすると演奏開始となった。
直後、さっそくハプニングがおきる。
予報されていなかったのに雨が降ってきたのだ。
(止めるのだろうか、すすめるのだろうか)
打ち合わせにはなかった事態である。
演奏に注ぐ集中力が分散される。
続いて風が襲ってきた。
(うわぁ)
譜面が勝手にめくられていく。
(落ち着いて)
ある程度暗譜はしている。
しかし、譜面をみられなくなると急に焦りがつのる。
案の上、テンポが速くなってしまった。
(ん~)
演奏は終えたものの、悔いが残る。
うなだれるばかりである。
すると、そこへお寺の御住職さまがいらした。
「風雨の中、ありがとうございました」
丁寧にご挨拶下さった。
続けておっしゃった。
「自然は思い通りにならない。我々はその中にいる。今日の演奏は、四苦の中を一生懸命生きるメッセージのように感じました」
(なるほど!)
すっかり感心してしまった。
世の中は常ならない。
お釈迦さまの教えではないか。
(これからも精進しよう)
御住職さまのお言葉が、瞬時に気分を上向かせてくれた。
お釈迦さまの御教えに以下のお言葉があります。
『粗野ならず、ことがらをはっきりと伝える真実のことばを発し、ことばによって何人の感情をも害することのない人、―かれをわたくしは〈バラモン〉と呼ぶ』
【岩波文庫 ブッダのことば 中村元先生訳P138】
ありがとうございました。