夕方、勤めている寺の門を閉めて若洲海浜公園に向かった。
釣りをするためである。
少し前に、釣り好きの友人と話をした。
「この前、タイみたいな魚を釣り上げている人がいたよ」
私はよく東京湾沿いの公園に行く。
だから、そこでみかけた光景をなんとなく伝えた。
「だったら竿をあげるからお前も挑戦してみなよ」
すると、友人が勧めてきたのだ。
「この辺でいいか」
若洲海浜公園には防波堤がある。
長さは五百メートル位ある。
そこには釣り人が多くいる。
そこで、右にならって、ズンズンと防波堤を進み適当に場所を決めた。
私は、釣りに関して全くの素人である。
だから、本当にテキトウに場所を定めた。
もらった竿をのばす。
疑似餌を糸に結ぶ。
やはり仕掛けもテキトウである。
事前に友人にレクチャーを受けた。
だが、はっきり言って難しかったのだ。
一人、海面に糸をたらす。
防波堤の幅は五メートルくらいである。
大きな船も行き交うので底は深いに違いない。
しかも、今いるのは防波堤の先端である。
あたり一面海水だ。
海にすいこまれそうである。
「落ちたらどうしよう」
余計なことが頭をめぐり怖なった。
それでも一時間半程頑張った。
夕日は完全に沈んでいた。
さて、道具を片づけて、陸側へもどろうとすると海面が騒がしくなった。
「えぇぇ!」
おどろいた。
のぞいてみると、小さな魚の群れだった。
バシャバシャと音が聞えるほど密集している。
防波堤の端から端までいっぱいいる。
まるで、巻き網漁で捕まえたような場景だ。
壮観だった。
後でしらべてみるとカタクチイワシの群れだとわかった。
普段は磯場を歩いたり、丘の道をランニングしたりしている。
だから、十年近く公園に来ているが、防波堤の先端まで来たことはなかった。
五十歳にも近くなると、世の中のことを知ったような風にもなってくる。
しかし、細かく観ればまだまだ知らないこと、不思議なことはいっぱいありそうだ。
とても楽しい釣りだった。
ところで、釣果は……。
もちろんボウズである。
方丈記に以下の文があります。
『わが人生で一番の楽しみは、のんびりと肘枕でうたた寝して、自由の境地を味わうこと以外にない。また、生涯で最後の望みは、四季折々の美しい景色を味わって、大自然に遊ぶことである』
【角川文庫 ビギナーズクラシック・方丈記 武田友宏先生編P140】
ありがとうございました。