夕方、勤めている寺の門を閉めてから海辺へ向かった。
車なら三十分程で東京湾に着ける。
このところ、とても暑い日が続いている。
部屋で仕事をする際には冷房を入れることとなる。
ところが、冷房が身体に合わない。
どうもだるくなるのだ。
寺は高層ビル群の中にある。
コンクリートとアスファルトに囲まれている。
だから、空気が一層暖められているのであろう。
ここまで暑いと窓を開けても熱風しか入ってこない。
(門前の虎、後門の狼)
そこでやむを得ず冷房を入れる。
そして、時間が有るときは心身の回復を図るために海へ行く。
夕暮れは魚が釣れやすいのだろうか。
岸壁には糸をたらしている人がちらほらといた。
(気持ちがいい!)
やはり穏やかな海風は心身の強張りをほぐしてくれる。
水際まで行くと、後から親子連れがやってきた。
お父さんが道具箱を、男の子が竿を持っている。
「うえぇ。汚いな」
海をみるなり男の子が言った。
小学三・四年生ぐらいであろう。
「東京だからね」
お父さんが応えた。
(東京だから)
妙に納得させられた。
「これじゃ魚もかわいそうだね」
再び男の子が言った。
優しい視点に気持ちが和んだ。
その後、ブラブラと水辺を歩いた。
親子の会話を振り返ってもいた。
都会は便利である。
建物の中は空調により一年中温度が一定である。
電車は数分毎にやってくる。
ある程度の生活必需品は二十四時間手に入る。
ほんとうにありがたい。
ただ……。
例えば夏はヒートアイランド現象が起きる。
大量のエネルギー消費は二酸化炭素を増大させる。
多くのゴミで埋め立てられた海からは、水を浄化してくれる浅場や干潟がなくなる。
失っているものも大きい。
「今日は暑いから、芝浦の海で泳ごう!」
もしも、海が綺麗であったならば東京の子供たちからもそんな会話がきけたかもしれない。
地方の子供たちのように気軽に海で遊ぶことができたであろう。
(いつかそんな日がくるといいのになぁ)
そのように望んでいる人は案外多いのではなかろうか。
安然上人のお言葉があります。
『草木もまた、みずから悟りを求める心を起こし、成仏するはずである』
(出典・斟定〔じんじょう〕草木成仏私記)
【枻出版社 名僧のことば 正木晃先生・大角修先生著P79】
ありがとうございました。