珍しく夢をみた。
ちょっとそれを物語風にしてみたいとおもう。
むかしむかし、あるところに幼い女の子がいた。
お父さん、お母さんと三人でなかよく暮らしていた。
お父さんは畑で作物をつくる仕事をしていた。
お母さんは、家を守り、畑仕事の手伝いもしていた。
そんなある日、お父さんが病気にかかってしまった。
奇病だった。
「ん~」
お医者さんに診てもらうと、よくないと言われた。
薬も飲んだが、十日過ぎても回復する様子はなかった。
床の中で苦しそうである。
「どうしたらよいのか」
お母さんは困り果てていた。
「そうだ」
それから数日後、女の子は急に家を飛び出した。
町外れの山の中にあるお寺へ向かったのだ。
幼い子にとってお寺へ続く山道は厳しい。
それでも、夢中で登った。
「お父さんを治してください」
たどりつくと、息を切らしながらも、いちもくさんにお堂前で仏さまへお願いをした。
「どうしたんだい」
境内を掃除していた和尚は、ほどなくして女の子に声をかけた。
こんな山奥に幼い子が一人で来たのである。
また、とても悲しい表情をしているではないか。
気にかかる。
「お父さんの病気がぜんぜん治らないんです」
女の子は、泣きながら説明した。
「そうか。では少し待っていなさい」
そう言うと、和尚はお堂から三寸程の小さな菩薩像を一体持ってきた。
そして、女の子に手渡した。
女の子は、丁寧に家へ持ち帰ると、お母さんに事情を話した。
「えらかったね。ありがたいことだね。では、きちんとお飾りしましょう」
そう言うと、二人はすぐに部屋を綺麗にかたづけはじめた。
小さな木の箱に白い布をかぶせ、その上に菩薩さまを安置した。
お花と、お水、そして作物もお供えした。
それから毎朝、二人は菩薩さまに手を合わせた。
和尚に言われた通り、正座をして願いを伝えた。
こうして五日程経ったときだった。
「どうしたんだろう」
朝、前日のように座ると、菩薩さまのお姿がいつもとちがっていた。
白い糸のようなもので覆われてしまっていた。
二人は慌てた。
「和尚さんにきいてくる」
再び女の子はお寺へ向かって走りだした。
「もう安心だよ。まもなくお父さんの病気は治るよ。きちんとお祈りしたんだね。さあ、今からお家に帰って、もう一度菩薩さまに手を合わせてごらんなさい」
和尚は笑顔で伝えた。
急いで家に戻ると、看病をしていたお母さんに和尚の話を説明し、一緒に菩薩さまへ手を合わせた。
すると、まもなく白い糸の覆いのすき間から光が出てきた。
それから、次第に覆いが溶け始め御像がみえてきた。
「あれ?」
あらわれた御像は、今までと少し格好が違う。
身につけていた様々な飾りがなくなっているようだ。
お母さんは、よく確かめるため、さらに顔を御像に近づけた。
そのときだ。
「ありがとう」
突然、御像が話しかけてきた。
「えっ?」
二人は目を丸くした。
「今、私は仏になることができました。お二人のお陰です」
御像は微笑んでいた。
善行を行ったため、菩薩から仏へと位があがったようだ。
「二人ともありがとう。仏さま、ありがとうございました」
今度は後ろから声がした。
二人が振り向くと、お父さんが元気な姿で立っていた。
三人は手を取り合ってよろこんだ。
以来、家族は毎朝仏さまにお礼のお祈りを捧げた。
そして、いつまでもいつまでも幸せに暮らしたそうだ。
無量寿経に以下の教えが記されています。
『菩薩は世俗の様々な道理を超越し、その心は常に覚りへの道に向けられ揺らぐことがない。また、すべての生きとし生けるものを思いのままに救い導く。多くの人々のために請われずとも進んで友となり彼らを背負って自ら重荷として課している。〔云々〕。菩薩がこのようにして積み上げてきた善行の一つ一つはみな、覚りを開く正因となっている。そして菩薩はみ仏方が具えている計りしれない功徳を体得するのである』
【現代語訳 浄土三部経 浄土宗総合研究所訳p33】
ありがとうございました。