数年前、突発性難聴になった。
列車に乗っていて、長いトンネルにはいる。
飛行機で離陸する。
そんなとき、耳が「ツーン」とすることがある。
丁度、その状態がずっと続いているような症状だった。
幸いにも薬がよく効いた。
お陰で今は聴力に問題はない。
ただ、それ以来、度々頭が「ズーン」とするようになった。
特に春が多いようだ。
我慢できない程ではない。
それでも締め付けられるような感覚になる。
心配はある。
そこで、念の為、再び病院で診てもらった。
「特に悪いところはありません」
先生の言葉に安心した。
ただ、それではなぜ症状があるのだろうか。
すかさず質問をした。
「気圧の影響だと思います」
あっさりと答えて下さった。
その後も詳しく理由を教えてくれた。
「そんなことあるのかな」
一応の理解は出来たが、にわかには信じ難かった。
それ以降、興味本位で自己観察を始めてみた。
頭が鬱陶しく感じられた日の天気も確かめてみた。
おどろいた。
「ズーン」となった日の翌日は雨が多かったのだ。
もちろん、まれに、翌日が晴れの日もある。
そんなときは、天気図を見てみる。
すると、たいがい少しはなれた太平洋上に低気圧が記されている。
「なるほど」
状況証拠からも先生のおっしゃる通りであった。
それにしても神秘的である。
これ程離れたところの大気が自分の身体状況に関連してくるのである。
「猫が顔をあらうと雨が降る」
「ナマズが暴れると地震が起きる」
こうした言葉も、あながち迷信ではないのかもしれない。
自然が所持している霊異なのかもしれない。
「翌日の雨が予測できる」
もちろん頭が重くなるのはごめんである。
ただ、私も自然の霊異に入れたようで、嫌な気分ではない。
霊異といえば、頻繁に考えることがある。
龍笛を吹いているときだ。
「笛には神妙な力があるのだろうか」
日中、お堂で笛を吹いていると、よく小鳥が集まってくる。
スズメ、メジロ、シジュウカラ、などだ。
「チュンチュン」
「チィーチィー」
近くの木にとまり囀っている。
雅楽の曲に「春鶯囀」がある。
文字通り、ウグイスのさえずりを模して作曲されたと伝えられている。
とても長く難解な曲だ。
私などには、一部分しか吹くことができない。
しかし、それでも小鳥たちが集まってきたならば、あえて吹いてみる。
外の誰かが聴いているわけではない。
独り気ままに吹きならすだけである。
「自然の霊異に溶け込んでいる」
そんなふうに錯覚しても迷惑をかけることはない。
気持ちが高揚し、ワクワクしてくるではないか。
ただ、一つだけ残念なことがある。
曲が終わる頃には、いつも一羽も残っていないのである。
方丈記に、以下の記があります。
『歌を詠んでも琵琶を弾いても、なお感興があふれて尽きない時には、何度も松風の音に合わせて箏の琴で「秋風楽」を弾いた。あるいは、谷川の流れる音に合わせて琵琶の秘曲「流泉」を奏でる。私の腕前はつたないが、人に聞かせて喜ばせようとするつもりはないから、だれにも遠慮はいらない』
【角川文庫 ビギナーズクラシック方丈記 鴨長明著・武田友宏先生編 P119】
ありがとうございました。