※注意※
この話はフィクションです。
歴史創作・パロディが苦手な方は、撤退してください。
それでも大丈夫な方のみ、以下からどうぞ。↓
「ただいま」
義助が喫茶店「わきや」に入ると、カウンターの向こうから店長が顔を出した。
エプロンを身につけて、気さくな笑顔を浮かべる彼が、義助の義父である。
「おかえり。今日のおやつはケーキだぞ」
カウンターに置かれた皿には、ケーキが一切れ載っていた。
店に出す試作品も兼ねて、店長が作ったものだ。
「これ、全部食べていいの?」
「もちろん」
義助の問いに、店長が当たり前だと言わんばかりに頷いた。
義助は椅子に座ると、フォークを手に取り、ケーキを一口食べる。
甘い。
美味しいおやつを独り占めできるなんて、ここはなんて良い所だろう。
やっぱり、脇屋家に養子に来てよかった。
今度兄に会ったら、思い切り自慢してやろう。
兄に会ったら……。
「会いたいよ……兄ちゃん」
呟きとともに、塩辛い雫が甘いケーキの上に落ちた。
そのとき、
「義助っ!」
店のドアが乱暴に開かれ、カウベルがけたたましく来客を告げた。
驚いて振り返った義助は、ドアの前に立つ人物を見て、さらに目を見開く。
「兄ちゃん!?」
涙に濡れた目を何度もこすって確認する。
間違いない、義貞本人だ。
だけど、新田家にいる彼がどうしてここに?
「おやつ。お前と一緒に食べようと思って」
義貞は肩で息をしながらそう答えると、右手を差し出した。
その手には、一口かじっただけの饅頭が1個、握られていた。
どうやら、彼も同じことを考えていたらしい。
義助は泣き顔から一転、破顔する。
「うん。一緒に食べよう!」
それから、義貞に隣の席を勧めると、お互いのおやつを分けあった。
半分ずつのケーキと饅頭だが、兄弟一緒に食べれば、美味しさは2倍だ。
やがて、厨房から出てきた店長が、義貞の存在に気付く。
「おや、君は――朝氏さんの?」
丁度おやつを食べ終えた義貞は、席から立つと、改まった様子で挨拶する。
「長男の義貞です。義助が――弟がお世話になっています。今日は、店長にお話があって来ました」
「話?」
突然のことに、店長が首を傾げる。
そんな彼をまっすぐに見つめて、義貞は言った。
「俺が社長になって新田組を再興させた暁には、義助を再び我が家へ引き取らせてくれませんか?」
静寂の中、店長が息を呑む音が聞こえた。
いつもはにこやかなその目が、戸惑いに揺れている。
「貴方がた夫婦が義助を可愛がって下さってることは知っていますし、感謝しています。けれども、彼は俺の大切な弟なんです。だから、」
お願いしますと、義貞は深く頭を下げた。
腹の底から絞り出すような声だった。
「兄ちゃん……!」
気がつくと、義助は彼に抱きついていた。
脇屋家は居心地がいいし、優しい養親には感謝している。
それでも、やっぱり一緒にいたいのだ。
大好きな兄と、ずっと。
「――わかったよ」
ため息交じりの承諾は、店長。
彼は藁半紙を取り出すと、義貞にボールペンを手渡した。
書くのは、義助の引き取りに関する契約書。
もちろん、末尾にはお互い署名をし、血判を押す。
「これで契約は成立した。弟のために頑張れよ、未来の社長さん」
契約書を義貞に渡しながら、店長は彼の肩を叩いた。
「ありがとうございます。必ず……必ず義助を迎えに来ます!」
***
義貞、脇屋家と契約。
喫茶店「わきや」の店長は、第一部番外編にもチラッと登場しています。
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