「網膜動脈閉塞症」前編 ~ある朝突然に~ | Jinkhairのバイカーへの道

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こちらは香川県坂出市にある理容室「Jinkhair(ジンクヘアー)」のブログです。店主が好きな「80年代HR&HMのアルバム紹介、ライブレポ」や「カメラ」「バイク」のことなど、日々の出来事などを気ままに書いております。

それは突然やってきた。


忘れもしない、2019年6月7日の朝7時ごろ、いつものように目覚めた。


前夜眠るまで特に何も変わったことがあったわけではない。

特に疲労していたわけでも、深酒したわけではない。


いつものように目覚めただけなのだ。

 

目覚めたとき左目に何か違和感を覚えた。

そう、まぶたが腫れて上の方が見にくいようなそんな感覚・・・。

「昨夜そんなに飲んだかな?」

それとも寝ている間ひどく目を擦ったのかも知れない。

 

いや、これはなんか違う・・・

階下に降りて鏡に目を写してみる。

見た目には少々充血しているだけで特段変わったことはない。

しかしこれは今まで経験したようのない違和感だ。


寝ぼけながらも少しずつ状況が明らかになってきた。

左目の上部約三分の一くらいの視野が欠けるように見えなくなっている!

それはぼんやりかすむような感覚ではなく、ギザギザの境界線を隔てて見える部分と見えない部分がハッキリと別れているという見え方。

この見えない部分は目をつぶってもはっきりとその形が分かるのだ。

これが左目の障害のイメージ、背景には目の検査の際使われる絵を使用してみた。このように焦点のすぐ上の部分まで灰色の雨雲のような影に覆われ、その部分は全く見えない。

 

 

「これは尋常ではない」

そう思った僕だが、家族には動揺を与えないようにさりげなく朝の支度をしながら「目の調子がおかしいから朝一番で眼医者に行って来る」とだけ伝えて家を出た。


「一体これは何の症状なのだろう?」

白内障だとか緑内障だとかは聞いたことがある。

しかしそれは徐々に悪くなるものであって、こんなに、一夜にして見えなくなるなどというものではないはずである。

ではこれは一体何なのだ、何より見えるようになるのだろうか?


実は以前から右目に「虹彩炎」という症状を時たま起こしていて、何度か受診している眼科があったのでそこに朝一番に予約を取った。

そのO眼科に着き、色々検査を受け、程なく診察を受ける。

 

「目の血管に異常がある可能性があります、紹介状を書くのですぐに総合病院の眼科に行ってください。その間にも眼球を手で押さえる『眼球マッサージ』を行ってください」とのこと。

 

医師の口調は淡々として落ち着いているが、何か重大なことを言いよどんでいるような歯切れの悪さを感じる。

ザワザワと胸騒ぎがする。

 

紹介された近くの総合病院K病院の眼科に向かう。

言われた通り眼球マッサージを必死でやるも、痛いばかりで見え方に何も変化は起こらない。

 

K病院の眼科でも同じような検査をし、診察を受ける。

最初の医師の時感じた歯切れの悪さは変わらない。

年配のベテラン医師はいくつか質問をし、造影剤を注入した上での眼底撮影が必要だという。

点滴で造影剤を入れながら検査台にあごを乗せ、目を開いたまま何枚もフラッシュ撮影を行う。

その中の数枚の写真を指して医師が言ったことを要約すると。

「ここを見るとわかるようにこの網膜の中の血管に小さな何かが詰まっている。これのせいで血流が堰止まり、その先の視神経に血液が流れなくなったために視神経が麻痺し、その部分が見えなくなっている可能性が高い。」

 

「じゃあ、その詰まった何かを取り除くことはできるのか?」

「そして、血流が戻ったら元通り見えるようになるのか?」

 

と、当然聞きたくなる。

しかし、それが聞けない。

それを否定されるのが怖くてそれが聞けないのだ。

 

どす黒いモヤモヤとした不安が胸の奥底でくすぶり、時間を追うごとにその体積を増してくる。

 

医師が

「しかし、まだ運がよかった方かもしれないよ、これが詰まる場所によったら全部見えなくなっていた可能性もある、またこの血栓が脳に行っていたら脳梗塞を起こしていたかも知れない。」

 

確かにそうかもしれないが、今は何の気休めにもならない。

僕にとっては・・・。

 

眼圧を下げる目薬と再発しないようにと血管を広げる飲み薬を処方され店に帰った。

 

まだ、なんか信じられない、フワフワとした状態。

これが悪夢であったなら。

それにこのような見え方で今までのような仕事ができるのだろうか?

前に右目に炎症を起こしたときあまりの痛さに眼帯をして仕事をしようとしたことがあったが、遠近感が分からず、とてもじゃないが怖くてカットができなかったことがある。

その時は右目を閉じたり開けたりして何とかしのいだが・・。

 

今回は左目が全く見えないわけではないが結構な面積の視野が欠けている。

店に帰ると結構忙しそうにしていて、お客様も何人か待たれている。

もうどうこう言っている場合ではない、やらなければならない。

 

ということで、その日何人かのお客様のカットをさせていただいた。

やはり仕事はしずらい。

僕らの仕事は目で頭髪のシルエット、面、毛流を常に観察し、髪の毛一本も見逃すまいと注意を払いながら行っている。

その何より大切な目に障害を負ったのだ。

さすがにこれまでと同じような仕事はできないかも知れぬと覚悟した。

 

しかし、一日何とか乗り切って、結果、まぁ何とかなった。

というのが正直なところである。

 

見えにくくても僕には35年の積み重ねがある。

こう切ったらこうなるという身体や五感に覚えこませた技術の積み重ねである。

 

仕事は何とかなると分かった。

問題は今後この目は良くなるのであろうか?

それとも、これがもっと悪化して見えない範囲が広がったりはしないだろうか?

また、再発して今度は全部見えなくなるとか、片方の右目まで障害を起こしたりはしないだろうか?

 

そんな不安にさいなまれながら眠りについた。

朝起きたら元通りになっているという奇跡を信じて・・・。

 

                                   中編に続く