王子公園を愛する心は阪神・淡路大震災の助け合いの心

につながっていることを忘れてはいけない
​​―神戸市の「王子公園再整備基本方針」を検証する―​​

       

 

やさしい動物園・王子動物園は1928年6月22日に諏訪山遊園地内で開園しました。動物園のなかった神戸市民の人気を集めました。
満州事変が勃発し、戦争に突入した1937年に神戸市に移管され、神戸市立諏訪山動物園として開園しました。
なぜ動物園の入り口に新聞少年のブロンズ像が設置されているのか?それは家計を助けるために働く少年・少女たちにも動物に親しみ、動物から生きるたくましさ、命の尊さ、地球環境の大切さを学んでもらいたいという理念を偶像化しているのだ。

 

 

 

 

 ​​はじめに

 

 現在、神戸市の提案してきた王子公園再整備基本方針(以下「素案」)が市民の間で大きな話題となっている。話題となっている背景には、市民なら一度や二度は動物園や遊園地に行き、野生動物とふれ合い感動し、遊園地で遊び楽しんだ思い出があるからだ。

 ここには人気のパンダやコアラ、レッサーパンダなど多様な動物がいる。遊園地は狭いが、児童向けの安心・安全な遊具があり、親子で楽しめる。しかもすべて低料金だ。

 ​ここはとても優しい動物園・遊園地なのだ。​

 神戸市はそれを廃止・縮小するというのだ。気持的には即反対だが、市には市の事情もあるようだからよく聞いて考える必要もありそうだ。そこで今回のブログでは神戸市の「素案」をしっかりと紹介し、その反対意見も紹介することで、神戸市の「ポテンシャル」(発展の可能性)を高める真のあり方について皆さんと一緒に考えていくことにしたい。

 

 

カピバラさんは大人気・カピバラは大きくて太っているがネズミの仲間だそうだ。ネズミの中でも地球上に現在存在する一番大きなねずみで、南アメリカのパナマからアルゼンチン北東部にかけて、川のほとりの草原や湿地帯に生息している。もともと暑い地域に住んでいるから寒さには弱い。日本に住んているカピバラは寒い日にはお湯につかり体を温める。その姿が「ほっこりさせる」と大人気だ。

 

 

 

 

​1、神戸市の「素案」​​

 

 神戸市の王子公園 再整備基本方針(「素案」)の内容は次の通りである。 

 

●王子公園の位置

 

​➀駅に近く利便性が高い貴重な空間である。​

​②関西学院、松蔭女子学院、神戸大学などが集中する文教地区である。​

③王子公園一帯は「近代から高度成長期の神戸の発展に先導的な役割を果たしてきた地域」である。


●王子公園周辺の現況

 

​➀阪急王子公園駅周辺は良好な住環境が形成されている。​

​②文化施設や教育施設、スポーツ施設が集積する​学術・文化のまち​である。​

③阪神・淡路大震災からの「文化の復興」シンボルとして建設された兵庫県立美術館(2002年)や横尾忠則美術館(2012年)などもあり、​多くの方々が市内外から訪れている。​


●王子公園の施設の状況

 

➀施設の老朽化・陳腐化

 ・供用後70年が経過した施設もあるなど、​老朽化が顕著である。​

 ・公園内にベンチや健康遊具などが不足しており、​くつろげる空間が少ない。​

 ・動物園の​展示方法が陳腐化している。​

 

②交通至便な駅前の​立地特性を活かせていない​

 ・駅に近い南東部のオープンスペースの大部分が駐車場で占められている。

 ・日本陸上競技連盟の公認を除外された陸上トラックや利用期間が限られる屋外プールが存在する。

 

●再整備の意義(「素案」からの引用) 

 

 

①神戸が目指す都市像を実現するために策定した『神戸2025ビジョン(令和3年4月)』では、「海と山が育むグローバル貢献都市」を新たなテーマとし、神戸が有する豊かな自然環境や開港以来育まれてきた国際性、多様性といった強みを磨き、それらを活かしたまちづくりを進めていきます。
②まちの質・くらしの質を一層高めることで、住み心地の良いまちを実現し、市民一人ひとりが心豊かに幸せを実感できる生活を享受するとともに、将来を担う若者が輝き、活躍できる社会の形成を目指しています。
③王子公園周辺は、山から海まで繋がる美しい景観が広がり、歴史や文化が薫るポテンシャルが極めて高い地域であり、このたび新たに大学を誘致することで阪神間を代表する学術・文化の拠点を形成し、我が国の成長・発展を担う人材の育成やグローバル貢献都市の実現を牽引していきます。
④王子動物園のリニューアルやスポーツ施設の再編・機能強化を図るなど、交通至便な駅前の立地特性を活かしながら集客力や魅力を高め、周辺一帯の活性化とブランド力の向上を推進していきます。

 

 

 

 

 

 

 

レッサーパンダ・とにかくかわいい。一度見るとやみつきになり、何度も訪れたくなるらしい。どこの動物園でも人気者だ。レッサーパンダはインド北東部、中国(四川省南部)、ネパール、ミャンマー、ブータンなどの標高1500~4800mの熱帯や亜熱帯の森林、竹林に生息しているそうである。
囲いがしてあるとしても、樹上を歩く姿は野生の習性を感じさせてくれる。

 

 

 

 

 

 神戸市「素案」に対する質問

 ●1月14日・神戸人権交流協議会は神戸市に以下の質問を送付した。

①老朽化の改善は当然のことだが、それぞれのこれまでの施設の役割、実績がわからない。

②大学を誘致し、それを起爆剤にして全体の改善を進めるようだが、旧施設と新しい大学施設との相互関連が不明。どうやらアメリカンフットボールのスタジアムを建設するようだが、関西の大学のアメフトチームは少なく、試合数も少ない。神戸が建設、運営経費に見合う成功を収めるのは困難ではないか。

③動物園の展示方法が「陳腐化」(目新しさがなく、時代遅れで価値がなくなっている)しているとあるが、「陳腐な展示」と「陳腐でない展示」の相違点がわからないから、具体的な事例で示すこと、また、動物園の現在の財政状況がわからないから説明すること。

                       神戸人権交流協議会代表幹事
                               森元 憲昭

 

​●「これからの王子公園を考える会」の集会で出された意見

 

 4月23日(土)、王子動物園ホールで、「これからの王子公園を考える会2」が開催された。これには170名を超える参加者(主催者発表)があり、神戸人権交流協議会からも代表が参加して学習させていただいた。

 集会には、神戸新聞、共同通信などのマスコミ関係者、また、神戸市議会からも立憲、無所属を除いて6会派の議員が出席していた。はじめに、「みんなの王子公園&動物園の会」の代表の野中裕史氏が、神戸市へ3,090人の署名提出、陳情書提出などについての活動報告を行うとともに、神戸市議会各派に対して行った「素案」等に関する公開質問状の回答内容について報告した。この回答については参加した各会派から補足説明があった。

 「素案」に対する会派の態度については、大学誘致については、自民が賛成、公明が概ね妥当という態度。他の会派は反対。プールなどの廃止施設については、自民、公明は条件付きでの反対、他の会派は反対であった。

 

 

「考える会」の集会・どこの大学がくるかわからないのに既存施設の廃止・縮小提起する「素案」に反対意見が続出した。でも、この「素案」には神戸市民の心を破壊する棘(とげ)が仕組まれているようだ。

 

 

 

 

●多かったのは「大学誘致」に関する意見 

フリートークでは「大学誘致」の経済波及効果に対する疑問や意見が集中した。

◯大学誘致しても地方の学生が多く、卒業したら地方へ帰ってしまう。

◯関西学院の近くに住んでいるが学生街はない。誘致してどれほどの経済波及効果があるのか疑問である?

◯学校教育法で、大学は、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とすると規定している。大学誘致で経済的波及効果を狙うのはおかしい。

◯動物園の老朽化対策は必要だ。最近キリンの赤ちゃんが死んだこともあり動物福祉も大切な課題だ。動物園を縮小して、そこに駐車場を造るというのは間違いだ。

 

●神戸市の「素案」作成過程についても疑問が出された

◯「「素案」の情報公開を求めても議事録はない。真っ白だった。今回の公園面積を半減して大学誘致するのは、再整備ではない。再び公園は帰ってこない」と強調し、計画が密室で行われ、公園が失われる危険性を指摘していた。

 

 

生物の多様性を学ぶ学校・人間だけ見ていては人間には理解できない。他の動物を見て、感動して、はじめて自分が人間という生物であることが理解出来る。また、世界中の動物から世界の広さを知る。
動物園は経済効果や赤字か黒字かで価値を決めるものではなく、市民の心の豊かさを基準に決めるものだ。
この動物園を愛する心は、世界を感動させた阪神・淡路大震災での市民の助け合いの姿につながっているはずだ。

 

 

 

 

​2、神戸市「素案」の問題点と市民の課題について考えてみよう​

 

 ①神戸市の「素案」は「地域バイアス」を生む危険性がある

 

 「素案」の内容、反対意見や疑問を踏まえると、「素案」は老朽施設を廃止し、大学を誘致するために再整備を行うことが目的のようである。それを『神戸2025ビジョン』の「海と山が育むグローバル貢献都市」「歴史や文化が薫るポテンシャルの極めて高い地域」をつくるという意義づけを行い、市民の合意をとりつけ事業を実施しようとしているのが本質のようだ。

 確かに王子公園周辺は「ポテンシャルの高い地域」であるが、そうした地域は王子公園周辺だけではない。長田区や西区にもあるはず、このように特定の地域を誇大評価する手法は「教育・文化水準が高い」「花さく一等地」などと宣伝して土地や分譲マンションを売る不動産屋さんの価値観に近い。

 このような評価の仕方は中立・公正であるべき行政としては誤りであり、市民の間に地域に対する「バイアス」(偏見)を生み、市民の地域に対する価値観に悪影響を与える危険性がある。

 

 ②「不動産屋的価値観」ではなく、市民の眼で考えてみよう 

 

 王子動物園は1928年6月22日に諏訪山遊園地内で開園した。動物園のなかった神戸市民の人気を集めた。満州事変が勃発し、戦争に突入した1937年に神戸市に移管され、神戸市立諏訪山動物園として開園した。

 神戸市民らにとって動物園は心安らげる憩いの場所であり、子どもたちにとっては世界中の野生動物を直に見ることが出来、自然と命の大切さを学習する場所だったのである。1944年7月には軍部・憲兵隊からの命令により、クマ、ライオン、トラ、ヒョウ、オオカミ、ヘビなどが殺処分させられている。そうした中でも、飼育員・職員たちは密かにオオヤマネコを隠して飼育していたという、生命に対する熱意が伝わるエピソードである。

 1946年3月31日、戦後の混乱により経営が行き詰まり閉園。しかし、市民と飼育員・職員たちの熱い要望もあって、1951年3月21日に神戸市立王子動物園として開園した。そして、戦争や幾多の経営難を克服して今日まで続いて来たのである。

 

 ③「素案」で「陳腐化」と酷評する神戸市の低い動物園認識

 動物の展示方法には主に、①分類学的展示―従来の日本の動物園が取り入れていた展示、たとえばサルはサル同士でまとめて展示するような方法、②地理学的展示―アフリカの生き物でまとめたり、アジアの動物でまとめる方法、③生態的展示―その動物がどういった環境で生活しているのかを再現する展示方法、④行動展示―獣舎の中の環境を動物に合わせる展示方法で、分類学的展示や地理学的展示と両立することもできる。

 現在の動物園の展示方法の主流は行動展示となっているようだ。素案で神戸市が「陳腐化」と酷評している意味は説明されていないが、王子動物園の展示方法が行動展示ではないことを指しているようである。

 では神戸市は王子動物園を行動展示にしようというのであろうか?行動展示は動物が十分動ける広い施設を用意し、設備も整えることを考えれば、檻を立てるよりはるかに予算も必要となる。しかし、「素案」では動物園を縮小し、縮小した空地に駐車場を造るというのである。 

 ​わけがわからない。​

 「素案」づくりに動物園のこと知っている人がいたのだろうか?税金を投入するのが嫌だから将来閉園するつもりでこんな方針を出したのではないかと疑いたくなる。神戸市民は徹底して神戸市から計画を聞きだす必要があるようだ。                                    

 

象さん象さんお鼻が長いのね・「わあー象さん!」と声を上げる児童。柵につかまり、くいいるように見つめていた。「もう行くよ、行くよ」と母親が催促してもなかなか離れなかった。
この子の心と記憶に残るのは巨大な体と長い鼻だけでなく、動物を愛する心も残るはずだ。

 

 

 

 ​④「素案」の児童遊園地の廃止は時代に逆行する​​

 遊園地は「素案」では「廃止」となっているが理由は説明されていない。また、同じく廃止されるテニスコートやプールについては反対する人が多いが、遊園地については反対意見があまり出ていないようである。こうした背景には、テニスコートやプールは利用している人たちが王子公園周辺に多く、遊園地を利用する人たちは神戸市全域、あるいは「安心して子育てのできる明石市」などの他の自治体からも来ているようなので範囲が広いから「素案」を知らない人たちが多いからのように思われる。

 昨今は「テーマパーク」が主流となり、高い料金を払い、刺激と興奮を掻き揚げる場となっているが、乗り物のほとんどが児童対象外となっているから、児童遊園地は子どもたちにとっては感動と興奮を与えられる重要な場所なのである。さらに、王子動物園のコンセプトである貧しい家庭の子どもたちでも動物と触れ合うことができ、そして、遊園地は安い料金で利用できるというやさしい心があふれているのだ。

 子どもの貧困が社会問題となってから久しい。子どもたちの豊かな情操と家族の絆を強めるために児童が安心して遊べる安全な遊園地は必要である。神戸市はその必要性を認識し、近畿圏内で最も愛される児童遊園地をめざすべきである。そのためには、神戸市民だけでなく遊園地を利用する人たちの意見を聞く機会を与えるべきである。

 

 

児童遊園地は注目を集めている・児童が安心して楽しめる安全な児童遊園地は全国的に注目され、公園に併設する形で遊園地が設置されはじめている。テーマ・パークでは児童が遊べる遊具が少ない。料金が高いからである。
この貧困化時代に子育てしやすい神戸市を築くために児童遊園地は必要だ。

 

 

 

 神戸市は「素案」を白紙にし、改めて王子公園再整備を検討すべきである

 有体に言えば、「素案」の本質は王子公園の諸施設が老朽化し、再整備が必要となっている状況を利用し、大学を誘致することで、王子公園地区周辺の「ポテンシャル」をさらに高め、不動産的価値を高めようとするものであるようだ。そのために、経済効率の悪いプール、テニス・コートや遊園地を廃止し、動物園は縮小しようとしているのである。

 神戸市は市民からの「どこの大学を招致するのか?」という質問には頑なに答えない。計画が本決まりになってもいないのに大学名を出せないのは、計画がとん挫した場合に大学に迷惑をかけることを考えればやむをえないとしても、そもそもこの「素案」が大学の誘致が前提としていることから考えると、公表しないというのは無理がある。

 このように問題のある「素案」がどのような審議を経て作成されたかを明確にせずに、いつものようにネットで「パブリックコメント」を募集して本計画を策定し、実施することは民主的原則に反している。 

 とはいえ、王子公園内の諸施設が老朽化し、再整備する必要があることも確かだ。現状のまま再整備するか?神戸市の財政状況を踏まえ、経済効率や経済波及効果を考えて整備するか?いずれにしても都市衰退への一里塚を築いてはならないことはいうまでもない。神戸市は「素案」を白紙にもどし、「王子公園地区再整備検討委員会」を設置し、改めて再整備の在り方を検討すべきである。

 

 

 

 

 

神戸市民は震災復興を成し遂げた・王子公園は神戸市民の公園。「ポテンシャル」はどこの区にもあるが、神戸市民の心の礎を築く場所はここにしかない。
誠にいいにくいが、アメリカン・フットボールが神戸市民の心を育てるとは考えにくいし、それを誘致しなくても既存の施設、特に動物園と遊園地を改善すれば経済波及効果は大きくなる。
神戸市民よ、行政に考えることを丸投げしてはいけない。みんなで一緒に考えようぜ