コロナ禍の中ですすめられる神戸市の都市政策

久元市政の3つの計画は市民を幸福にできるか

 
 

 

はじめに

 本年、コロナ禍の中、神戸市は二つの市民の未来を左右する計画と「検証」を発表しました。 
 ひとつは『行財政改革2025』(「改革2025」)です。ふたつ目は「第3次市営住宅マネジメント計画」(令和3年~12年) (案)です。そして、3つ目は新長田の再開発事業の失敗の責任を回避するための「新長田南再開発事業の検証」です。
 これらの計画・検証はすべて「神戸市都市空間向上計画(立地適正化計画)」を実現するための具体的な行動計画ともいうべきものであり、人間の顔と生活が見えないデジタルを基礎としたコンパクトシティを築こうとするものです。
 こうした計画の実施は市民生活を急激に変化させ、神戸市の未来の在り方をきめるものであり、市民一人一人が内容をよく知り、討論し、意見を発すべきものであると考えます。
 『行財政改革2025』については本ブログに掲載していますので、今回は池田清さんに「新長田南再開発事業の検証」についてのコメント、神戸人権交流協議会事務局には「第3次市営住宅マネージメント計画」について神戸市への意見をまとめましたのでその二つを掲載しました。

 

 

 

1、「新長田南再開発事業の検証」と「無責任の体系」  

                  池田清(元神戸松蔭女子学院大学教授)

 

 


 

 

 

 「有識者会議」による「新長田駅南地区震災復興第二種市街地再開発事業」の検証報告書が年内に出されるという。この検証は、新長田南の再開発事業が、大震災復興のメインプロジェクトであることから、ある意味で大震災復興の総括的意味をもち、これからの神戸の都市づくりに大きな影響を与えるものです。現在、「有識者会議」で出されている資料で推測できる検証の問題点は次のことが考えられる。

 第1に、「有識者会議」は、この再開発事業に関わった神戸市職員の意見等を提示いただくなど、行政の立場からみた本事業の検証を行うとしている。しかし、被災者の意見等を聞き、被災者の立場からみた本事業の検証を行わないという根本的な問題を持っている。

 第2に、この事業の目的は、①被災権利者の早期生活再建、②災害に強い安全安心のまちづくり、である。しかし、この事業には、借地や借家被災者は被災権利者と位置づけられていないという問題があるが、この点についての検証はなされていないようである。
 第3に、どれくらいの被災権利者が、この被災地で生活や営業が首尾よく再建されたのか検証されていないのである。
 第4に、この事業は、約1000億円もの赤字を出し一般会計からの支援によっている。赤字は、つまるところ、私たち市民の負担によって賄われるのである。
 第5に、被災者の生活や営業の再建に失敗し、多額の赤字を出したこの事業は、「有識者会議」のメンバーによると、「既存の制度と合致しない社会情勢の出現があり、誰も責任はない」ということらしい。「既存の制度と合致しない社会情勢の出現」とは、「不動産価格の下落、不動産市況の低迷」であり、それらをもたらした経済の衰退と人口の大幅な減少と考えられる。しかし、震災前の長田区の人口は、表1のように1970年の210,072人から1993年の132,339にまで、およそ20年有余で約7万8千人も減少し、経済も衰退するインナーシティ地域であったのだ。
 にもかかわらず、神戸市が、経済成長と地価上昇、人口増大を条件として成り立つ大規模な再開発事業(区域面積20ha、事業費2,279億円)を強行したことが、この事業の失敗の原因である。このように、決断主体と失敗の原因が明確であるにもかかわらず、「誰も責任がない」という「無責任の体系」、すなわち「決断主体(責任の帰属)を明確化することを避け、『もちつもたれつ』の曖昧な行為連関を好む行動様式」(丸山眞男『日本の思想』)の体質を転換しない限り、神戸市の衰退は止まらず市民は幸福になれないであろう。

 第6に、国立社会保障人口問題研究所によれば、神戸市の人口は2015年の1,537,272 人から2045年には1,295,786人と15.7%も減少するという(政令指定都市のなかで上位4位にランクされる減少率)。にもかかわらず、現在、神戸市は大規模な三宮再開発事業をすすめていることは、新長田再開発事業と同じ過ちを繰り返すことになるのではなかろうか。

表1  長田区人口の推移    単位 人
 

             

 西暦   1960年   1970年   1980年   1990年   1993年 
人口  202,338  210,072  163,949  136,884  132,339

 

 

 

 

 

資料  国勢調査、神戸市統計書

 

2、「第3次市営住宅マネジメント計画」に対する意見

コロナ禍-貧困が深刻化する中、公営住宅を減らしてもいいですか                 

                 
 

 

 

 神戸市は、12月1日、「第3次市営住宅マネジメント計画」(令和3年~12年) (案)を発表しました。現在これに対する意見募集を令和3年1月8日まで受け付けています。
 計画(案)の基本は、良好な市営住宅ストックと将来需要や財政負担を踏まえ管理戸数を震災前の40000戸未満をめざし、約7000戸の古い住宅を削減するというものです。
 私たち神戸人権交流協議会は、12月9日、建設住宅局事業計画係に来ていただき、説明を受けました。
 その内容は

①再編対象住宅は、昭和55年以前に建設したエレベーターのない住宅で全市で284棟7057戸です。

②入居者の高齢化が進む中、エレベーターのない住宅や郊外住宅で空家が増えているといった課題を踏まえ再編と改修を行う。 

③将来(令和13年以降)再編予定の住宅については、募集停止を行い、空き住戸を期限付きで計画的に転活用する。転活用は、若年世帯や学生向け住宅、子育てや高齢者支援等の活動拠点、社宅、グループホーム、シェアハウス等、ニーズを把握しながら進める。

 進め方は

①エレベーターのない住宅(階段室型等)は廃止とし、周辺地域のエレベーターのある良好な市営住宅に移転していただく。

②入居者の移転先を確保できない場合は、エレベーターの設置、住戸内の設備の改善、改修を行う。こうした取り組みをしても効果的・効率的でない場合は建替えを行う。

 事業のスケジュールは 

①意見募集は令和3年1月8日まで。

②計画の策定は令和3年2月下旬。

③計画の開始は令和3年4月。

 というものでした。

 担当者は再編対象住宅は全体の5割が高齢化しており、郊外住宅は募集しても入居者がいない等の現状も説明されました。

 

 


日本共産党神戸市議団が発行した報告

神戸市は対象者には「計画案」を送っていますが市民にはほとんど知らせていないようです。
そんな中、この報告はインパクトを与えていますが必要な方は下記まで。
電話322―5847


 

 

 

 神戸人権交流協議会の4つの意見

 

 「計画案」は削減が全面に出されている。コロナ禍で市民の生活が困窮化することが予想され、市営住宅への入居希望者は増加する可能性が予測される。しかし、「計画案」ではそうした点には全く触れられていない。さらに、入居者には住み慣れた地域と住宅に住み続けたいという強い気持ちがある。そうした気持ちに配慮した計画づくりを進めるためには、「意見募集」から対象市営住宅の説明会には充分な時間をとるべきである。

 こうした観点に基づき次の通り意見を述べさせていただくことにする。

①コロナ禍の中での本「計画案」は居住者の生活実態と感情を無視しており、提案すべき時期について再考すること。 

②「意見募集」の期間が短すぎる。対象公営住宅の居住者が家族や親族、近隣住民と話し合う時間が必要である。

③「計画案」の策定から開始までのスケジュ-ルが短すぎるため、居住者の現地建替などの要望が反映できない。

④「計画」の中には同和関連住宅があるので、配慮ある個別説明・相談、相談会を行うこと。
 

 

 


神戸市が市民意見を募集しています

市営住宅は市民の財産。公営住宅に住んでいない方も意見を送ろう。意見が多いと神戸市は喜びます。


 

 

 

 

 

 

 

鉄人28号―ロボット兵器の未来を予想していた横山光輝
鉄人28号はJR新長田駅南側、若松公園内に設置されている。直立時の設定が18mにも及ぶ巨大モニュメントである。
鉄人28号は神戸市須磨区の出身で新長田にゆかりのある漫画家横山 光輝(1934年6月生)の代表作である。
漫画「鉄人28号」は1956年から月刊誌『少年』で連載開始された。その頃すでに、手塚治虫の「鉄腕アトム」が連載されており、子どもの人気を2分していた。 
私(70歳)の丁度子どもの頃は、『少年』だけでなく、『少年画報』、『冒険王』などの付録つきの月刊漫画全盛時代で、それぞれが好きな雑誌を買い、それを友人同士で回し読みしていた。
子どもの中では、アトムは「未来の話」、鉄人28号は「現実の話」という区分けがあった。理由はアトムは電子知能で考え、話し、自らの意志で行動できるが、鉄人28号はリモコンで操縦される機械で、リモコンを握ったものが善であれば善を行い、悪が握れば悪を行うからである。
それから60年以上たって、大国はロボット兵器を続々と開発している。横山光輝の描いたロボット兵器と人間の関係は全く変わっていない。

 

 

 

 

映画最盛期の空気が感じられる
神戸映画資料館は鉄人像から一番街商店街通り、国道2号線を渡ると目の前にある「アスタくにづか」の2階にある。
資料館の窓には映画全盛時代を彩った懐かしき「眠狂四郎」「不知火検校」など、時代劇のポスターが貼られてある。であるが、その中に「蜘蛛の巣城」のポスターがあるが、使われている写真は「用心棒」であるからおかしい。
入口を入ると喫茶店だ。入るとすぐ脇に旧い大型映写機が置かれ、その脇には早世した名優ジェームスディーンの写真パネルが置かれている。私は若いときにリバイバルで観た「エデンの東」の感動を思い出した。 喫茶店の大きな窓の下は本棚になっていて、『スクリーン』などの古い映画雑誌が並んでいる。コーヒーを飲みながら、雑誌を手にとって見ると、往年のハリウッドスターとともに名作映画の写真と解説が懐かしさを誘ってくる。
映画はストーリーとともに記憶の中閉じ込められている「よき思い」を鮮やかに呼び覚ます魔力があるようだ。その「よき思い」はなぜか長い人生の疲労を温かく包んでくれるから不思議だ。

 

 

 

 

 

映画の「灯明」に出会う
神戸映画資料館は当然ながら喫茶店ではありません。
当館の資料によれば、映画フィルム、書籍、ポスター、機材などを収集・保存・公開する施設で、収蔵するフィルムは18,000本(2020年4月現在)。国内にある民営の機関としては最大規模のフィルムアーカイブだそうだ。 そんな立派な施設が新長田にあることにびっくりだ。
しかも、この資料のほとんどが館長の安井喜雄氏個人の収集品というからすごい。さらに、この資料館は38席のシアターが併設されており、35mmのフィルム映写機を設置した本格的な映画館でもあるのだ。
はじめて訪れたから安井館長には会ったことがないが、資料館の空気感から勝手にその人格を抽象化せていただいた。それを表現させていただくと、「灯明」だ。
比叡山や高野山には千年以上燃え続ける「不滅の灯明」があるらしいが、そんなに長くは灯っていないとしてもここには人の心を心底から温める「灯明」があると思った。

 

 

 

ワクワクする ーKOBE鉄人三国志ギャラリー
鉄人三国志ギャラリーはアスタくにづか5番館南棟にあり、映画資料館のすぐ近くにある。 横山光輝ファンとしては絶対に外せない場所である。 
入ってみるとやはり夢の世界であった。
高齢者である自分を忘れ、「鉄人28号」や「伊賀の影丸」の「三国志」のフィギュアやイラストにワクワクしてしまう。しかし、それは最初だけであった。
ギャラリー中は外から見るよりも狭い。その狭いところに多くの資料が展示され、なおかつキャラクター商品がひしめいているために、横山光輝の世界に没我できない。さらに、「鉄人28号」や「伊賀の影丸」などの物語やキャラクターの魅力についての詳しい説明が少ないのが残念だ。
「鉄人28号」の魅力は機械らしい機能的なボディとともに、両手で抱えられる小型操縦機によって正義と悪にでもなるという、今日でも通用するテーマ性にある。
「伊賀の影丸」には人間でありながら超人的な忍術を駆使するという魅力だけでなく、忍者組織の階級制とともに忍者たちの悲哀も表現されていた。そこに共鳴したのだ。
誠に申し訳ないがもう少し広い場所を確保し、横山光輝の底の深い世界を発信していただきたいと思った。

 

 

 

命を削り描かれた漫画「三国志」
横山光輝氏の漫画「三国志」のもとになっているのは吉川英治の小説「三国志」であるといわれている。その吉川「三国志」は中国文学作品「三国志演義」(羅漢中作)を基にしている。
漫画「三国志」は「桃園の誓い」から蜀が滅亡するまでを全60巻で描く大作である。この作品によって横山光輝は1991年、第20回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞した。
テレビ、ゲーム、映画で「三国志」の人気が高いのは恐らく漫画「三国志」の影響であろう。それほど浸透しているのだ。
私は「三国志演義」を昔読んだ。そして、漫画「三国志」も読み続けてきた。比べると省略している部分もあるが、漫画「三国志」で描かれている主な登場人物である劉備、関羽、張飛をはじめ、曹操や呂布などの絵と私の長年持ち続けてきたイメージとに違和感はなかった。
恐らく、横山光輝氏が「三国志演義」も何度も読み、「三国志」の世界を深く理解していたからであろう。実際に、記録を読むと横山光輝氏がテレビのロケなどで中国に幾度も訪れ、始皇帝陵などを参考に研究し、何度も修正を加えたとある。
漫画「三国志」は大げさに言えば横山氏が命を削り描き上げた傑作漫画なのである。

 

 

 

横山光輝を都市計画の失敗隠しにつかうべきではない
1995(平成7)年1月17日(火曜)午前5時46分、神戸の街は「震度7」の激震に見舞われ、新長田は未曾有の被害を受けた。
その直後に神戸市は都市計画決定を行い、再開発事業がはじまった。計画は高度成長期の都市開発手法に基づくハード整備を優先であった。その結末については本ブログの池田清氏のコメントを読んでいただきたい。
神戸市は早期復興を目指したが、商店街などにかつての活気は戻らず、批判を浴び続けた。人口減少や少子高齢化、経済情勢の変化などにさらされる中で、大きな課題に直面していたのだ。 そうした課題を解決するために漫画の神様横山光輝を降臨させ、総工費1億3500万円をかけ「鉄人28号」の実物大モニュメントを建設したことは画期的なことであった。 
あくまでも主観的な意見ではあるが、横山光輝が存在していなければ今の商店街の賑わいは半減しているだろう。
都市計画が無残な失敗に終わる時に正義の鉄人28号が助けにきてくれたのだ。

 

 

 

神戸市民の永遠の財産に―横山光輝
一番街商店街、「アスタくにづか」を歩くと、 「三国志なりきり看板」と題して、街の人たちが扮した三国志武将のほぼ等身大の看板に出合う。
まちの賑わいを創造するために街の人たちが参加し、楽しんでいる姿は面白い。「三国志」で街おこしをしているという決意がつたわる。しかし、訪問者という立場からいえば違和感が残る。その理由はあまりにも「地元臭」強すぎて、「三国志」の浪漫性がかき消されるからであろう。
横山氏が命を削り描き上げた「三国志」の世界観に入り込み浸りたい来訪者のことを考える必要もあるだろう。
いずれにしても日本を代表する横山氏の作品をテーマにして街おこしができることは長田区民だけでなく、神戸市民にとって幸運なことなのだ。
漫画が日本文化から世界の文化に定着する中、横山光輝への注目は世界から集まることは明白であろう。
都市計画の失敗隠しとして利用するのは料簡が狭い。新長田の地元商店街の振興に利用するだけではもったいない。世界から横山光輝、漫画・アニメファンの集まる神戸にするために、神戸市は横山光輝の価値を再評価すべきだ。

(by神戸人権交流協議会のシン)