ー神戸市政研究の第一人者 池田 清さんに聞くー ​​
コロナ禍のもとで幸福都市神戸は実現できるか
 
 
 
 
 はじめに
 コロナ感染が食い止められない中、政府は感染防止と経済の再開という難しい政策を選択しました。確かに政府の「Go To」という掛け声により、有名観光地への人出は増え、消費も増加しているように思えますが、果たして経済の再建は実現できるでしょうか?
 私たちのもとに下町の飲食店や小売店の店主から、「これを機会に廃業」という声も多く寄せられてきています。その原因はコロナ感染のひろがりだけではありません。少子高齢化による人口減少、相次ぐ消費税率の引き上げによる慢性的不況が続いてきたこと、さらに、神戸の特徴としては明治以来の神戸経済の中核であった重工業の衰退などがあり、極めて複合的なもののようです。
 こうした困難な中でも、私たちは幸福都市神戸の実現を目指さなければなりません。そこで、今回は神戸の都市政策研究の第一人者といわれている池田清先生にコロナ禍のもとでの神戸市の政策の問題点と課題について語っていただきました。
 困難な時こそ学習。学習して自ら展望を拓きましょう。
 
 
 
 
 
 
​​​​​池田 清(いけだ きよし)
​​​
1947年大阪市生まれ、関西学院大学経済学部卒業、京都大学大学院経済研究科博士課程修了、経済学博士(京都大学)。 民間企業、神戸市役所勤務を経て北九州市立大学法学部教授、下関市立大学経済学部教授、神戸松蔭女子学院大学教授を歴任。専門は都市政策、地方自治。 著書に『神戸都市財政の研究』学文社、『創造的地方自治と地域再生』日本経済評論社、『災害資本主義と復興災害』水曜社。
 
質問1-全国で新型コロナウィルスが広がり、各自治体が感染防止と経済回復の両立という難しいかじ取りが求められる中で、この間の神戸市の対応をどう評価すべきでしょうか?​
 神戸市のなすべきことは、市民の健康や生活、営業を把握するための実態調査を行うことです。市民の暮らしを実感することで本当に必要な施策が生まれます。神戸市は、新型コロナで最も犠牲を強いられている非正規雇用者や低所得者、フリーランス、ひとり親世帯など生活困難者の救済と自立のための支援を徹底して行うことです。
 神戸市は、この間、9区にあった保健所を1ヶ所に統合したため、PCR検査数が圧倒的に足りなくなっています。神戸市は「一日最大562件の検査数に対応」すると言っています。しかし、東京都世田谷区で先進モデルを指導した児玉龍彦(東京大学先端科学技術研究センター名誉教授)によれば、日本全体で1日に20万人以上が必要です。神戸市に適用すれば2千5百人の検査が必要となります。
 以上の点が、この間の神戸市の対応で問題だったのではないでしようか。
 
 
 
​質問2―全国でコロナ倒産が拡大し、神戸でも飲食店をはじめ地域の経済を支える中小企業が危機的状況にあります。当面インバウンドによる経済効果が期待できず、中小業者はさらにきびしい経営が迫られる中で、今後、神戸市において行政としてどのような経済対策が必要でしょうか?​
 神戸の中核産業である重工業は、経済のグローバル化のなかで海外移転をすすめ、関連企業も含め雇用が削減されてきました。さらに新自由主義によって非正規雇用が増大し社会保障が削減され消費税が増税され内需が減少してきました。そのため外需やインバウンドなどに依存する不安定な経済構造がつくられたのです。そこへ新型コロナが追い打ちとなっています。
 今後は外需から内需へ転換すべく、最低賃金の大幅アップや安定した雇用、保育や介護、医療、年金など社会保障の充実、農業の振興などの政策をすすめるべきでしょう。特に、モノからサービスと知識基盤型産業への産業構造が転換している現在、その産業を担い高付加価値を生み出す人財を育成するシステムを構築することが喫緊の課題でしょう。
 神戸市の施策は、自助・自己責任を強調し、公助・公的責任を縮減する「自助・共助・公助」論を克服し、国民の「生命、自由及び幸福追求権」(憲法13条)や「生存権保障」(憲法25条)、「地方自治体の住民福祉の増進」(地方自治法第1条の2)をもとにすすめるべきです。
 もともと「自助・共助・公助」は、阪神淡路大震災の災害直後の対応で、公助(公的機関が救助・援助)には限界があることから、自助(自分の身を守る)を基本として、共助(コミュニティで助け合う)で減災を図るという考え方から出ています。その後、災害の「自助・共助・公助」論は、政府の「社会保障の在り方に関する懇談会報告書」(2006年)で拡張され、以下のように位置づけられました。 
① 自ら働いて自らの生活を支え、自らの健康は自ら維持するという「自助」を基本とする。
②これを生活のリスクを相互に分散する「共助」が補完する。
③ その上で、自助や共助では対応できない困窮などの状況に対し、公的扶助や社会福祉などを「公助」で補完する。
 問題は、菅首相の「自助・共助・公助」論は、災害対応や社会保障だけでなく、国の基本、目指すべき社会ビジョンとして打ち出していることです。それは、今まで以上に、市民、とりわけ自営業者や中小零細企業、そして労働者などに自助、自己責任を求めるものです。一方、大企業は累進税率の緩和で法人税が減額され、富裕層の株式配当も税優遇されていますが、さらに「デジタル庁」、スーパー・シテイなどデジタル・デバイド(デジタル格差)により大企業や富裕層がより富める格差拡大社会になります。これを糾す必要があります。
 
 
 
​質問3―新型コロナウィルスで「密」の回避が叫ばれる中、神戸市が進めている三宮一極集中の都市開発と空間都市計画はどのような影響が出ると考えられるでしょうか?​
​ 三宮一極集中の都市開発は、アベノミクスの「民間投資を喚起する成長戦略」で国家戦略特区(都市再生特区)による都市計画の規制緩和のもとにすすめられています。国の方針を三宮に引き写したようで、いままでの経緯や市民の意向が十分に考慮されていないという問題があります。三宮のマーケットは、大阪梅田に比べ薄く、観光のパワーも弱いため、過剰開発になるおそれがあります。新型コロナは、一極集中の大都市がいかに脆弱であるかを実証しました。市民の健康と暮らしを大切にする「自治・分散型の新しい都市像」が求められています。​
 
 
 
​質問4―政府がリーダーシップを失い、全国の地方自治体の知事・市長が発言力を強め、独自に政策行っている現在の情勢についてどうお考えでしょうか?​
 久元喜造神戸市長は、元総務省の官僚で、国の方針に則り神戸市の施策をすすめているようです。神戸市は、第32次地方制度調査会答申の「地方行政のデジタル化」を受けて『行財政改革方針2025-変化を捉え、果敢にチャレンジ-』の報告書をつくり、スマート自治体を目指しています。AIの活用とIT化で職員数を750人削減し、来庁者を40%削減するというのです。「市民の要望」さえAIが決めるシステムを目指す、自治や民主主義と相容れないたいへん危険な方向です。
 
 
 
質問5―新型コロナウィルスによって感染者への差別や偏見による感染者バッシングなどがすでに起きています。コロナと人権問題についてお考えをお聞かせください。
 今、日本社会は、新型コロナで感染した人へのバッシングなど自己責任論が過度に強調され寛容性が失われているようです。国連の「世界各国の幸福度に関する2019年度版報告書」によれば日本は58位、その幸福度を計るデータの中で「寛容性」が日本は低いと指摘されています。さらに、PCR検査が極めて不十分なため不安と恐怖が差別と偏見へとつながっているようです。PCR検査の徹底による科学的認識で、差別や偏見は克服できる面があるのではないでしょうか。​
 
 
 
 
​​​​​​池田清著『神戸―近代都市の過去・現在・未来』(社会評論社)​​​
​​
  池田清(池田さん)は神戸港開港からはじまる神戸市の発展について歴史的に概括する。 神戸市は神戸開港と共に近代日本の発展に沿って、「大日本帝国主義」の道を支える「軍事港湾都市」として膨張する一方で、国策である湊川神社を発信源とする「忠君愛国」を基礎とする「皇国都市」としてのイメージを定着させた。 敗戦後は高度経済成長に支えられた金属、機械などの重工業と造船業に支えられ近代都市として生まれ変わったが、やがて韓国、中国に圧され衰退しはじめる。 新たな基幹産業を育成できず、阪神・淡路大震災以後は少子高齢化時代の到来とともに都市は縮小しはじめる。 神戸の未来を考える人には必読の書。
 
 
​​​​「大神戸主義」からの転換の道筋―神戸新聞(2020・1・5)
​神戸新聞は本書を「近年、露見した市役所労組の『ヤミ専従』問題も、労使一体で長年続けられ、市民不在の市政の一面をあらわにしてみせた」。「どうすれば住民主体のまちづくりが進められるか。そのヒントも本書は示している」と評価している。​





 

​​​​質問者―内海恵太さんの感想(神戸人権交流協議会民主企業組合)​
 
内海恵太 私たち民主企業組合は池田先生から学んだ基本線を踏まえて、学習を深め、展望をもって、コロナの影響でインバウンドの期待がほとんど持てない、消費の冷え込みが続くことが予想される中でも、来年に向けて力強い運動を展開していきます。 消費税の引き下げによる消費購買力の回復、PCR検査数を増やし、感染予防を徹底化し、街や商店街に活気を取り戻す。さらに、ワクチンの実用化とともにインバウンドを回復させるなどの要求を市や県、国に対して突きつけていきます。 学習と運動が中小業者の生活と営業を守ります。

​​​​

 

 

 

連載・草の根から幸福都市神戸を5 「大阪都構想」に反対します 池田清 元神戸松蔭女子学院大学教授

 

 今、私たちは、新型コロナの感染を防止し、経済や社会を取り戻すという喫緊の課題に直面しています。しかし、大阪府と大阪市は、58億円もの経費をかけて、この11月1日に大阪市を廃止する「大阪都構想」の是非を問う住民投票という愚策に打って出ました。
 新型コロナが私たちに突きつけたことは、市町村自治体の充実なくして、住民の生命と健康、くらしを守ることができないということです。そのことは、この間の「地方行政改革」のもと、自治体の保健所機能が低下しPCR検査がきわめて不十分となり、多くの犠牲者を生んだことをみても明らかです。
 さらに、大阪市住吉市民病院の閉鎖により、妊婦が安心して子どもを産めない弊害があらわれています。しかし、『大阪都構想』は、住民の生命と暮らしをまもる砦となるべき、特別の財源と権限を有する大阪市を廃止し、住民の自治権や自治財政権がきわめて脆弱な特別区をつくります。子育て支援活動や老人福祉センターなど、市民サービスが低下し職員も削減されます。よって私は、『大阪都構想』に反対します。