2020年―『神戸学』をはじめよう     
  ―神戸市の発展は市民の英知と行動にかかっている―
 


六甲山縦走中に出会った大仏さんとドラキュラさん
 お二人に聞くと、「神戸市民は真面目すぎる。ただ黙々と歩くだけでは面白くない。縦走路には出会いと驚きと交流がなければいけない」と言う。 確かに、よく見ると可笑しい。すれ違う登山者はみんな笑っている。 ハロウィン(毎年10月31日)の頃に、安全を配慮した仮装で皆が縦走すれば面白い。企業や行政主導ではない市民のお祭りとなるかもしれないと勝手に思った。

 


 2020年は神戸市元年というべき年になりました
 神戸市の労働組合役員の「ヤミ専従問題」を皮切りに始まった労働組合幹部の特権的待遇に対する是正は、外郭団体にも及びました。新聞によれば、神戸市の外郭団体「神戸新交通」が労働組合役員を務める社員に不適正な貸しつけや給与支給をしていた問題で大量処分が行われ、中でも、元労組委員長については懲戒解雇され、長年にわたる行政当局と市労働組合幹部の癒着による腐敗の膿は出し尽くされつつあるようです。
 また、垂水区での「女子中学3年生のいじめ自殺問題」では教育委員会の指導主事が同級生からの「聞取りメモ」を破棄させ、調査を困難にした問題、「教員同僚いじめ事件」におけるハラスメントの概念をこえる「おぞましい」犯罪行為に対する調査と処分などが行われました。
 この間、久元喜造神戸市長はそれぞれの問題に対して明確なコメントを発し、個別に第三者委員会を発足させ、問題点を洗い出し解決の方向性を示してきました。勿論、私たちはそのすべての結論に納得しているわけではありませんが、これまでのように労働組合との「ボス交」で課題を解決するという前近代的手法でなく、問題点を市民公開し、神戸市長主導による解決をはかるという市政に転換してきているようです。
 
 市政のあるべき方向が見えた「都市空間向上計画(素案)」での議論
 その典型が、神戸市の「都市空間向上計画(素案)」(以下、「空間計画(素案)」)に関する提案と市民意見への対応にみられます。少子高齢化と重工業を中心とする産業の衰退は神戸市の人口を減少させ、都市構造を劇的に変化させてきました。そうした現状認識の上に立ち「空間計画(素案)」提案は賛否は別として極めて時宜を得たものでした。
 久元神戸市長は「空間計画(素案)」を市民に提起し、以来、4回にわたり、市民から意見を募集しました。これは地元の「ボス交」中心にしてきたこれまでの市政においては異例のことであり、これに対して、日本共産党市会議員団は反対意見を市民に提起し、計画の撤回を迫るたたかいを展開しました。市議会における議席数は少数とはいえその闘いぶりは、「竜虎相打つ」ごときインパクトを市民にあたえました。結果として、「空間計画(素案)」ほぼ原案通り決定されたとしても市民参加による市政のあるべき典型像を示したという点では大きな意義があったように思います。

 『神戸学』からはじめよう幸福都市神戸の実現を
 この間の神戸市職員による一連の不祥事にみられる官僚の劣化、その劣化を生み出した旧態依然の「ボス交」による市政が完全に行き詰っていることは明白ですが、市議会においては日本共産党を除く政党が久元市長を無批判に支持し、市民の側に立つべき市の労働組合は幹部たちの不祥事により解体状況に追い込まれています。
 こうした状況の中で生まれるのは民主的な市政とは限りません。危険なのは権威主義です。権威主義とは強い者や権威に従う、単純な思考が目立ち、自分の意見や関心が社会でも常識だと誤解して捉える傾向が強く、外国人や少数民族を攻撃する傾向があり、このような社会的性格を持つ人々がファシズムを受け入れやすいと言われています。 
 今後、久元神戸市長が批判的な市職員を排除し、形式的な民主主義手続きは行うが市民の市政への参加を行わず、むしろ市政への無関心を奨励するようになり、それを批判し、是正する市労働組合や市民団体との懇談・交渉を拒否するようになれば独裁の一歩手前の権威主義に陥ることになります。
 私たちは神戸市を権威主義に基づく官僚主義市政としないために意識的に意見・提言・対案を市民の力で出さなければなりません。そこで『神戸学』が必要なのです。居酒屋で、喫茶店で、夫婦で家族で神戸の未来を話し合えるように学習討論していくのです。そこで今回は神戸の都市、産業、文化、社会の基層を理解するうえで重要だと思われる書籍を選んで紹介させていただきました。

 


司馬遼太郎著(『街道をゆく21・神戸散歩』)
神戸の基層①-外国人が築いた産業と文化
司馬遼太郎(司馬さん)はこの紀行文の中で、居留地が日本人に与えた都市思想について「当時、居留地をとりまく市域は、きたなかったらしい。そのころの日本人にとって、目の前の居留地こそ都市思想の見本と考えるのは、素地がなさすぎたのであろう」と、その都市思想の未熟さに触れ、「市も市民も一つの思想のもとに都市建設をするようになるのは、第2次大戦で焼かれてからのことである」と、日本人が自分たちの思想に基づき都市をづくりを始めたのが戦後であり、極めて遅れていたことを指摘している。
司馬さんは西洋人の企業家がはじめた洋菓子、パンやケーキなどの洋風の食品産業、そして、中国人華僑が持つ貿易の世界ネットワークを活用した舶来の雑貨、真珠加工業や洋服店などのファッション産業、そして、須磨区・長田区を拠点に発展してきたケミカルシューズ産業と共に生きる在日朝鮮人の姿にも触れ、神戸の都市づくり、産業や文化に外国人が大きく関わってきたことを明解にしている。
◯神戸の都市、文化、産業の基層にある居留地からはじまる外国人の強い影響。そして、外国人との協働で築いた豊かな社会関係を明快な文体で正確に描き出す。  

 ※出版社・朝日文庫

 

 

賀川豊彦著『死線をこえて』
 神戸の基層②貧困とたたかう
 賀川豊彦(賀川さん)のこの小説は1920年に出版されました。上・中・下巻を合わせると合計でじつに400万部が売れたそうです。まさに、大正期最大のベストセラーになりました。 神の啓示を受けて死線を越えた主人公の新見栄一は貧しき人々を救うため、神戸の新川に移住します。当時、この街には地方から仕事を求めて集まった人々が居住していました。その世帯数は2000世帯以上、なんと2畳一間に平均6人の家族が住むという劣悪な環境のスラムでした。
 ここで栄一はキリストの愛を伝える伝道生活に入るわけですが、劣悪な住環境、犯罪、人間以下の生活を強いられる人々など、スラム街の抱える様々な問題に直面していきます。 彼はスラムの現実に絶望的な悲鳴をあげて神を呪うこともありますが、献身を続けていきます。
◯この本にある新川という貧困地域はもう存在していません。賀川さんたちの努力、戦後の復興事業と住環境整備、住民の自立的な努力により消え去りました。

※出版社 PHP研究所

 

 

 

鳥飼慶陽著『賀川豊彦と私たち』
 神戸の基層③貧困とたたかった牧師
 鳥飼慶陽(鳥飼さん)は日本基督教団の牧師でありながら、労働牧師として、同和対策が着手されていない時代、神戸の「旧同和地区」に住み、自治会活動や部落解放運動に参加しました。
以来50年、ともすれば「被害者意識」に流され情動的に走りがちな運動論に対して理性と知性にもとづく理論と政策を提示し、日本有数の都市型の「大規模同和地区」を数多く抱える神戸市の同和対策を、全国の自治体に先駆けて完了・終結させる支柱となりました。 ​鳥飼さんは「『解放』という言葉は、わたしたちがひさしく忘れ去っていた『人間の基本語』であった」として、​​キリスト者の眼でとらえる人間性の根源的把握とその生き方の探究は、「​部落解放運動に対しても重大な貢献をするであろうことは確実であると思うのである」​​​と、見事にキリスト教と部落解放運動の融合の可能性を指摘しています。
◯神戸の部落解放運動がキリスト教の牧師さんの力に支えられてきたというのは面白いではないか。

※出版社 部落問題研究所​

 

藤井康生著『神戸を読む』
 神戸の基層④災害都市神戸の実像
 藤井康生(藤井さん)は2006年に東京のブランド総合研究所が発表した「日本の都市魅力ランキング」によると、神戸が全国2位(2016年は9位)になっていることを指し、「経済中心の都市ランキングにおいて神戸が上位にくることはないが、漠然とした感覚的なイメージのランキングでは高い地位を占めているところに神戸の特徴がある」と、神戸がイメージで成立していたことを指摘し、都市としての魅力が「軟弱な基盤のうえに成立していたことを阪神・淡路大震災が『暴いた』」と主張する。
 藤井氏さんは災害によって露わになった神戸文化の二重性を解明しつつ、その根源にある神戸市民の大地の<霊力>が神戸の未来を築くことになることを予見する。
◯神戸のイメージが虚構によってつくられ、大震災がこれを崩壊させた と指摘するが、それは正しい見方と言えるだろうか?。

 ※出版社 晃洋書房

 

 

 

宮崎辰雄著『神戸を創る』
神戸の基層⑤都市経営の原理
 宮崎辰雄(宮崎さん)は都市行政を都市経営と明確に言いきっている。 「自治体といえども都市経営だ。自治体といえども、経済力をつけなければ住民福祉の向上はおぼつかない。市自身が収益事業をやり、その収益を社会福祉、教育、医療その他、どこへでもつかっていくという方法である」ということだ。  
宮崎さんは原口忠次郎前市長の後を継いで昭和44年に市長に当選し、原口市政がすすめていた港湾の大規模開発を引き継ぎながら、福祉優先、環境保護、市民参加を旗印に20年間の長きにわたり大都市神戸を創り上げてきた。 都市開発と経済成長がうまく両輪として機能する成長の時代を生きる官僚出身市長の自信に満ちた書である。
◯神戸をイタリアのナポリのような都市にしたいと考え、都市づくりに魅せられ全精力を注いだ官僚の情熱が伝わる。

 ※出版社・河出書房社

 

 

池田清著『神戸―近代都市の過去・現在・未来』
 神戸の基層⑥過去・現在・未来
 池田清(池田さん)は神戸港開港からはじまる神戸市の発展について歴史的に概括する。 神戸市は神戸開港と共に近代日本の発展に沿って、「大日本帝国主義」の道を支える「軍事港湾都市」として膨張する一方で、国策である湊川神社を発信源とする「忠君愛国」を基礎とする「皇国都市」としてのイメージを定着させた。 敗戦後は高度経済成長に支えられた金属,機械などの重工業と造船業に支えられ近代都市として生まれ変わったが、やがて韓国、中国に圧され衰退しはじめる。 新たな基幹産業を育成できず、阪神・淡路大震災以後は少子高齢化時代の到来とともに都市は縮小しはじめる。
◯神戸の全体像を把握するための必読の書といえる。神戸を俯瞰でとらえるとともに、その陰までとらえている。

※出版社・社会評論社

 

 

 

 

 

 今、竹内まりや「いのちの歌」が、学校の卒業式でも歌われ多くの人に愛されています。♪「この星の片隅で めぐりあえた奇跡は どんな宝石よりも 大切な宝物」。たしかに「めぐりあえた奇跡」は、人だけでなく山や川、草や木、虫や鳥などの「命のつながり」のなかで起きるものですね。人は、「命のつながり」のなかで幸福を、すなわち、健康で、ゆたかな人と人との関係、人と自然との関係を築き、自分の人生を自己決定でき、個人として尊重されることを求めるものなのでしょう。
 ♪「いつかは誰でも この星にさよならをする時が来るけれど 命は継がれてゆく」。人の生は「はかない」ものかも知れませんが、「命のつながり」と「継がれてゆく命」によって、宇宙(銀河系)のなかで「永遠の命」として輝けるのでしよう。
 この歌が、多くの人びとに受け入れられるのは何故でしょうか。それは「命のつながり」と「継がれてゆく命」に対する不安と危機感があるのではないでしょうか。日本は、地震や津波、豪雨、原発事故が潜在している災害列島です。ひとたび大災害に見舞われれば不幸のどん底に陥ってしまうのです。環境科学者のヨハン・ロックストロームは、私たちが現在の道をたどり続ければ、高い確率で気温上昇は2度を越える危険があり、不可逆的で破滅的な結果をもたらす危険性があると警告しています。ドイツの環境シンクタンクは、2018年の気候変動で一番被害を受けた国として日本をあげました。
 しかし、神戸市にある神戸製鋼所は、温暖化の要因である石炭火力発電所(140万kW)を建設・稼働し、さらに、新たに(130万kW)の増設工事をしています。神戸市は「山を削り海を埋め立てる」大規模開発を推し進めてきました。森林破壊と海面埋め立てなどで、山や川を壊し、草や木、虫や鳥、魚などの生きる場を奪い、地球温暖化の要因をつくってきたのです。私たちは、このような近代の文明を反省し、「命と幸福」のために温暖化問題を克服すべく、草の根から「学び合い育ち合い助け合い信頼しあう」コミュニティをつくることが求められているのではないでしょうか。