ニュースでも大きく取り上げられている関越道バス事故。

亡くなられた方にご冥福をお祈りします。


今回が初めてといっていいくらい大きく取り上げられた「高速ツアーバス」

人件費コストの高い路線バスと比較しても安価な商品として提供されています。

国交省の認可を必要とせず、運行根拠は旅行業法に準じられています。

要は旅行業の資格を保有して営業している業者で、自社バスを保有または提携のバス会社に委託すれば簡単にツアーバスを企画実施することができます。


規制緩和によって、大小数多くのバス会社が跋扈し、長年勤めている我々も初めて見聞きするようなところも増え、玉石混合の様相です。

新規参入できるとはいえ、素人はだしで始める業者も多く、ベテランの貸切バスドライバーに言わせれば

「下手くそな素人が増えて運転しにくくなった」

と評しています。


今までの高速路線バスの運行は国交省の許認可事業として、自治体から委託され助成金を投入して運行を維持しております。

都市間路線バスはいわば許認可を受けた旧来のバス会社の縄張りです。

新参者の中小バス会社は路線区間に立ち入る余地がなく、旅行会社や大手バス会社の子請け孫請けのような貸切バスの仕事が多くなります。

んが、規制緩和によって増えたバス会社が増えるということは、貸切バスの需要・供給バランスが崩れるわけなので、仕事を確保すべく価格破壊の様相となるいわゆる買い手市場です。


事業者にとってキャッシュフローは重要です。

売上を上げてお金を回さないと銀行からも借り入れできなくなるし、そのためには安くても、赤字でも、薄利多売で仕事を取らないと食いっぱぐれになります。


そこで、生み出されたのが高速間ツアーバスという概念です。

例えば地方都市から東京にお客を輸送するだけでは、従来の路線バスとの競合になります。

ですのでツアーとしての大義名分を掲げれば良いということから、その対象として「東京ディズニーランド」が標的になりました。

ディズニーランドに行って帰る往復バス+チケット(オプション)ということでツアー要件は成立します。

さらに、新宿など東京を経由するということで、「途中下車」を認めれば一般の路線バスと同等の価値を有します。

あとは、赤字が出ない程度に切り詰めて旅行代金を設定すれば、路線バスより安価でオトクなツアーの出来上がりです。

さらにネット社会に対応することで独自の利便性を企業努力で向上させたのが今の「高速ツアーバス」と呼ばれる形態です。


需要が増えること自体は喜ばしいことです。

安価を武器に消費者に受け入れられ、年々規模が大きくなってはいます。

・・・・が、薄利多売で多数運行しますので、当然乗務員の運行や健康管理も重要になってくるのですが、運行会社多くは中小企業で組合もなく、人件費を切り詰めて少人数でまわします。

もともと、新規参入から薄利多売でドライに売上を目的としていますので、法定に抵触しなければギリギリまで乗務員を利用するのが会社というものです。


今回の事故を引き起こした運転手の勤務自体は規定に沿ったものだったのでしょう。

しかし、ドライバーは人間であって機械ではありません。


同じ体勢で、前をみながら淡々と高速道路を繰り返し運行することは、トレーニングを受けたプロであっても疲労度は蓄積されていきます。

特に夜間運行ともなれば、その負担は昼間の比ではありません。

にもかかわらず、夜行バスのワンマン運行を繰り返し行っているのであれば、いくら法定上問題なくても労務上道義的な問題となります。


高速道路の構造も被害を拡大したと言われていますが、それは結果論であり、根底として高速ツアーバスに対する労務上の問題が原因だと思います。



私も仕事柄ツアーバスを運行する人間との付き合いもありますが、仕事としてはあまり行うことがありません。

都市部で高速ツアーバスの幅を広げている会社の人間も何人か知っていましたが、名刺交換してしばらくすると退職している方が多いので、職場環境もあまり健全といえないのかもしれません。


夜行バスをワンマンで運行するなど危険極まりない。

そんな会社の商品を、需要がある、安いからという理由だけでホイホイ売るようなマネはできません。

高知県には高速ツアーバスを運行する会社が数少なく存在しますが、私は特に付き合いはないので健全な労務体制で行っていることを願うのみです。


欧米のバスドライバーではこんなことは考えられません。

・規定の時間を超えての運転は絶対にしてはいけない。

・2時間走れば必ず、30分は休憩を取る

など、国によって規定はまちまちですが、ドライバーの人権に重く配慮しています。

先進国としては日本のバスドライバーに対する扱いは低いといっていいでしょう。


安さのみを追い求め、安物買いの銭失いならぬ、安物買いの命失いになっては元も子もありません。

旅行商品の金額と安全の担保は比例していることを意識して利用していただくのが肝要かと思います。