仙台に来て、意外と思ったのは東北弁(仙台弁)をあまり聞かない事である。共通語で話す人が多いものの、よく聞くとアクセントやイントネーションの違いがあり、共通語がベースで、たまに仙台弁が混じる人も少なくない。(「いきなり」=とても、「だから~」=そうだよね が代表的である)
前著でも取り上げたが、今や仙台弁オンリーで会話をする人は少数で、地元のTVやラジオでも頻繁に聞く事は無い。あるとしたら、「恵子のいーぐする民謡」(東北放送)と言うラジオ番組を持つ民謡歌手の庄司恵子氏ぐらいだろう。番組内はほぼ仙台弁で喋り、大変貴重な存在だ。
他、宮城を代表する人気番組「OH!バンデス」(ミヤギテレビ)で、長年MCを務める歌手さとう宗幸氏が、視聴者参加コーナーで、視聴者との電話を仙台弁で話したり、「突撃!ナマイキTV」(khb東日本放送)でMCを務める地元タレントの本間秋彦氏は、”方言川柳”コーナーで視聴者から寄せられた方言の川柳をイキイキと詠んでいるのが人気である。
ではどうして、仙台弁は日常で使われなくなったのか?よくメディアの発達が影響したと言う指摘があるが、関西や九州等は依然として老若男女が方言で話す人が多く、必ずしもそうとは言えない。
一般的に方言は”西高東低”と言われている。特に東北は”訥弁””ズーズー弁”で、気質もあって訛りが恥ずかしいと思う人が多く、東京に出て苦労しながら矯正した東北出身者が結構いたと言う。岩手県のある町では”教育振興運動”と称し、方言禁止を打ち出し、就職や進学で東京に出る前に、子ども達を矯正させようとしていた事実もある。
仙台市が作成した、コロナ禍に対応した「せんだい生活スタイル」。記載の仙台弁を使っている人は少ない。
(※画像はyahoo!画像より)
生粋の仙台っ子の、私と同年代の知人がこう言っていた。
「(方言をあまり使わない事を)気にしてなかったな。仙台って良くも悪くも、常に見ているのは東京。確かに街を歩くと東京のマネみたいな感じだよな。東京は方言が無いから、そういうのもマネしているんじゃない?」
ちょっと待て。東京は方言が無い!?もしかしたら、彼と同じ勘違いをされている方はいらっしゃらないだろうか?結論から言えば、東京にも方言はあり、正解では無い。私は専門家じゃないので、ざっくりになるが、少し東京の方言について説明させて頂こう。
東京は全国各地から人が集まるため、言葉がバラバラで会話が通じない事が大きな問題としてあった。そこで、作られたのが共通語で、その殆どが東京で使われている方言を組み込んだのである。
その東京だが、地域としては下町、山の手、多摩の3つに分かれる。つまり、東京の方言は3種類ある訳だが、例えば多摩では幾つかに細分化され、実際はもっと種類が多くなるが、細かくは触れない。(他、島部にも独特の方言がある)
共通語の標準になったのは山の手弁で、丁寧かつ上品なのが特徴である。旧幕臣達が住んでいたところで、現在も高級住宅街が多く点在するエリアだ。
下町弁は、よく時代劇や落語でも登場する、あのべらんめえ調の言葉だ。庶民達が多く住むエリアで、乱雑で忙(せわ)しいのが特徴、3つの中で最も早口である。
多摩弁は、東京の中で最も郊外で、範囲は神奈川県にも渡り、広域である。後述するが、多摩弁は若者言葉として、今も残っているものが多いのが特徴だ。
私は東京出身で、エリアとしては多摩になる。今も多摩弁をよく使うし、本来は早口な方だ。中学の時、岩手に引っ越したが、最も苦労したのは言葉で、転校して暫くは同級生や先生の話が聞き取れず困惑した。20年前に仙台へ来た時、言葉が不安だったが、とても拍子抜けしたのを思い出す。
では、共通語及び共通語と思って誰もが使う、東京発祥の意外な方言や、東京でしか使われていない方言をご紹介しよう。
【ギャグや笑い目的に思われがち】
■「あんだって?」:なんだって?(志村けんさんのギャグだが、元々は東京の方言)
■「ごきげんよう」:さようなら(山の手の上品な言葉、長寿番組だった「ごきげんよう」はここから来ている!?)
■「ざます」:です(山の手の上品な言葉、スネ夫の母親の口グセはギャグでは無い)
【若者が生んだ新しい言葉に思われがち】
■「うざい」:うざったい(多摩中心に使われ、私も子どもの頃から使っていた)
■「きもい」「きしょい」:気持ち悪い(多摩中心に使われていた)
■「だべる」:喋る(東京の多くで使われる方言、漢字では「駄弁る」)
■「ちゃり」「ちゃりんこ」:自転車(東京の方言、私も子どもの頃から使っていた)
■「ぶっちゃけ」:本当は(キムタクがドラマのセリフで使い、広がったが多摩の方言)
■「まじ」:本気(これも多摩中心に使われる言葉)
■「やばい」:危険(これも多摩の方言、最近は「すごい」等に意味が変化)
【外来語と勘違いされがち】
■「おめざ」:起きてすぐに食べるお菓子(「はなまるマーケットおめざフェア」はこれが語源)
【日常的に使う共通語だが、元は東京の方言】
■「しょっぱな」:最初
■「しょっぱい」:塩辛い
■「ぼくんち」:ぼくのうち
■「おっかない」:怖い
■「乗っかる」:乗る
■「いかさま」:詐欺
■「おてんとうさま」:太陽
【日頃、私が使うも東京以外で通じなかった言葉】
■「かたす」:片づける(ニュアンスは何となく伝わった)
■「えんぴ」:汚いものを見た、触った時(共通語だと思っていた・・・)
■「してる」「ふてる」:捨てる(私は「してる」と言う方が多い)
■「ちっけった」:じゃんけんぽん(じゃんけん前の掛け声、岩手では通じず)
■「さみしい」:寂しい(今でも言ってしまう・・・)
■「しんじく」:新宿(これも言ってしまう・・・)
■「ごった」:ごっちゃ(これまた言ってしまう・・・)
ごく一部だが、何か発見はあっただろうか?
上記以外で私がよく使うのは「~じゃん」、強く言う時は「~じゃんか」「~じゃんよ」。これは典型的な多摩弁で、山の手や下町では殆ど使わない。ただ、今では仙台でも普通に使っているから、東日本の共通語に近い認識になりつつある。
100の方言は100の宝と言う。東京にも方言はあるのだから、仙台にだって方言が残ってもいいと思うのだが・・・関西の人達が、世界中どこに行っても関西弁を通すように、自分達のお国言葉に誇りを持ちたいものである。
