過日、夜のバイトからの帰宅中に、近所に住むおっさんと目があった。こちらをみてニコニコしてぼくのほうに近づいてきた。ぼくも、いやあと挨拶したが、ちょっと厚かましいところのあるおっさんなので、いやな予感がした。

国勢調査に協力してくれと言う。よく知らないが、なんでもぼくの遠縁にあたるらしいこのおっさんは押しが強くていつも断りきれない。で、ぼくはインターネットによる調査書を受け取らざるえなくなった。ネット操作に不慣れなので回答できないかもしれませんが・・・とぼくが答えると、待ってましたとばかりに、そのときは、このおっさんが調査書をわざわざ自宅に届けてくれるのだという。まったくもってありがた迷惑なんだなあ。

国勢調査の意義についてはぼくも十分わかっているつもりだ。国の施策上、統計をとることは重要なことだと、ぼくも思う。以下がその調査事項だが、統計にはまったくそぐなわない事項がいくつかある。

(1)世帯員に関する事項
氏名
男女の別
出生の年月
世帯主との続柄
配偶の関係
国籍
現在の住居における居住期間
五年前の住居の所在地
在学、卒業等教育の状況
就業状態
所属の事業所の名称及び事業の種類
仕事の種類
従業上の地位
従業地又は通学地
従業地又は通学地までの利用交通手段
(2)世帯に関する事項
世帯の種類
世帯員の数
住居の種類
住宅の床面積
住宅の建て方

男女の別や出生年月はよろしい。世帯主との続柄や配偶の関係についてもいいだろう。しかし、どうして統計に「個人の氏名」が必要なのか。就業についても、就業状態や仕事の種類はよろしい。従業上の地位を確認するのもいいと思う。しかし、どうして統計に「所属の事業所の名称」まで必要なのか。以上の2点は、統計にはまったく不要であろう。

こういう、ふだんの日常の中にあるおかしなことにまずは疑問を持つことだし、疑問だと思ったら、それを問いただすことが必要だと思う。こういう小さな疑問をほったらかしにしておくと、いずれ大きな疑問があっても抵抗できなくなるのではないだろうか。

ぼくにはまったく理解できなかったので、調査書に載っていた国勢調査コールセンターに電話した。20秒で10円かかるとの音声から始まり、大変込み合っているので・・・ときたので電話を切り、総務省統計局のHPを参照することにした。




「調査漏れや重複調査を防ぐため」がその理由らしい。ばかばかしい。こんなかんたんな調査項目で間違える恐れはまったくない。仮に間違えたとしても、問い合わせに応じるつもりはない。たかだかこれだけの理由で自分のプライバシーを放棄するなんてあまりにばかげた行為だろう。

・・・と思ったものの、調査書の封筒の裏表紙に、そういう不届き者がいるだろうことを予想して、脅しの文句もちゃんと大書してあった。「回答を拒んだり虚偽の回答をした場合の罰則も定められています」

だったら、「氏名」「所属の事業所の名称」のところだけ白紙にしたらどうなるんだろうかという疑問が生じた。これなら、回答を拒んだり、虚偽の回答をしたわけでもないからだ。ということで、またまたコールセンターに電話した。今回は一発でつながった。ぼくが聞いたのは以下のふたつ。

①「氏名」や「所属の事業所の名称」は、統計上必要もない項目なのにどういう理由で調べているのか。②「氏名」「所属の事業所の名称」を白紙で回答したばあいはどうなるのか。以上の2点である。

①については総務省のHPと同じことを言っていた。アホらし。そんな理由では、書かんからなあ。②についてはすぐに回答が返ってこず、上司に相談するといって、4、5分待たされた。待たされた結果、以下のような回答が返ってきた。

「書きたくないばあいは、自分の責任で書かなくてもいいということです」

「自分の責任って、どんな責任ですか。場合によっては罰則の対象になるということなのかな」

また上司に相談して、

「いえ、罰則の適用はありません。書きたくない方は白紙で出してかまいません。ただ、ネットで申請する場合は、氏名等を白紙にすると先に進めず、受理されません」

「それじゃ困りますね。けっきょくのところ、近所のおっさんに渡すしかないということになります」

「そうなります」

「そのときも白紙で出していいのですね」

「かまいません」

「後で、おっさんから、白紙だから書いてくれということはないのですか」

「その場合は、そのように申し立ててください」

「でも、申し立てたら、何のために白紙で書いたのかわからなくなってきませんか」

「・・・」

ああ、アホらしくなってそこで電話を切った。


〈追記〉
ネットで調べたら、こういう情報も見つかった。ひとつはこちら

以前は町内の人がやってて、全員の封筒を開けて「ここが抜けてるからちゃんと書いてよ~」とか「勤務先変わったんだね」とか個人情報は翌日には町内中に知れ渡ってたよね 最近封印できるようになって今回からはネットやスマホで送れるから助かります


→町内に知られるという噂はぼくも聞いたことがある。というか、近所の人が調査する人なら、周辺に漏れないほうが奇跡みたいなものだ。最近は封印できるから大丈夫だという意見なのだが、それでも記入漏れがないか開けちゃう人がいるとも聞いたことがある。仕事熱心で自分はお国のためにやっているんだと思っているから、封印されていてもおかまいなし。こういうのはなお始末が悪い。

もうひとつがこちら。ネット調査による情報漏れのリスクについてである。以下に引用する。

コンピュータシステムはいくら防御したところで、破られる時は破られます。どうせ漏れるのですから、最初から余計な情報は集めないことが今後、統計に携わるべき人にとって真剣に考えなければならないことだと思います。〈太字強調は引用者による〉


調査結果と名前をリンクさせたり、統計法で規定する以外の目的に回答が使用されることはありませんなどと総務省のHPではうたっているが、それに対しても、

「使用しない」と言ったところで、調べている人、それを集計する人、データ閲覧権のある人、つまり、現情報にアクセスできる方の信頼性は口でいろいろ決めたところで保障できるものではありません。


いずれももっともな意見だと思う。それでも、あなたは氏名を書きますか。


〈9月29日段階でのぼくの結論〉
国勢調査の意義については理解しているつもりなので、その範囲で協力する。すなわち、郵送という方法があることから、氏名・勤務先は白紙にして郵送する。