北朝鮮危機とはなにか | 爺庵独語

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爺庵の独善的世相漫評

 安倍政権の北朝鮮危機というプロパガンダに惑わされてはいけない。安倍はどん底状態の不人気を、北朝鮮問題を利用して一気に回復させようと考えている。そのため、頻りに北朝鮮危機なるものを煽り立て、悪辣非道の北朝鮮に対し一歩も退くことなく毅然とした態度で経済制裁を進める頼りになる首相のイメージを演出しようとしているのだ。ある程度の支持率回復が見込めた段階で、一気に衆院解散に持込んで、さらに余勢を駆って憲法改正という野望の実現も視野に入れているだろう。

 

 そもそも北朝鮮危機とはなにか。それをよく考えてみなければならない。このところ頻繁に行われるミサイル発射や核実験によって、なにか日本の安全保障が従前に比べて危機的状況に陥らされているかのように安倍政権は喧伝し、行政は政権の意向を汲んで避難だ危機管理だと右往左往し、御用メディアもまた政権の意向に従って危機を煽る報道を続けているのだが、果して米国にトランプ政権が誕生する以前と以後において、日本の国土防衛を従前に増して脅かすような変化はあったのだろうか。

 

 現に北朝鮮はICBMの開発を進め、既に完成の域に達しているではないかと言われるかも知れぬ。先日の核実験は水爆の製造に成功したとみられているではないかと言われるかも知れぬ。それらはつまるところ、日本国民の安全を守る上で、実に大きな危機ではないか、変化ではないかと言われるかも知れぬ。

 

 だがよく考えて見よ。北朝鮮が日本の国土にミサイル攻撃をしかけようとするのであれば、ICBMなどは要らない。既に実戦配備されているはずのノドンやテポドンで十分すぎるほどである。核爆弾はそれが水爆であろうが原爆であろうが、首都東京を破滅させようとするなら、いずれであっても効果は同じことである。人が余計に死ぬか、破壊の範囲が広がるかというだけの違いだ。北朝鮮はおそらく核弾頭を登載できる中距離ミサイルは既に持っているのであり、日本の安全保障上の脅威ということだけで考えるのであれば、今の危機状況も、3年前4年前の危機状況も、なんら変わらない。ICBMはあくまで北朝鮮がアメリカを狙う能力を持つために開発を進めているのであって、日本の安全保障上の新たな脅威などではないのだ。

 

 今の北朝鮮危機とは、アメリカと北朝鮮との間の問題である。そのことをまずきちんと認識する必要がある。

 

 といって、他人事のように考えるわけに行かないのは、万一米朝間に軍事衝突が起こったときには、北朝鮮が日本の国土にミサイルを撃ち込む蓋然性は極めて高いからである。なぜ米朝間の戦争に際して、日本は北朝鮮から狙われるのか。いうまでもなかろう。日本には多くの米軍基地があるからである。北朝鮮は日本国内にある米軍基地を攻撃するためにミサイルを撃つのだ。これがきちんと認識すべき第二点目である。

 

 その二点をよく考えて見よう。これは、アメリカと北朝鮮との戦争に日本が巻き込まれようとしているということではないのか。北朝鮮危機の本質とは、アメリカの安全保障上の脅威となっている北朝鮮の核開発ミサイル開発を、あたかも日本の安全保障上の新たな脅威であるかのように日本政府が宣伝しているという、ただそれだけのことではないのか。

 

 北朝鮮の脅威というのは、今も、昨年も、一昨年も、日本にとっては同質のまま推移しているのである。ゆえに北朝鮮危機とは、質的な変化ではない。状況の問題なのだ。安倍政権は弾頭を搭載してもいない実験ミサイルの発射を、しかもそれは過去にも行われたことであるものを、北朝鮮がミサイルを撃った撃ったと囃し立て、地下へ逃げろ、頑丈な建物へ逃げろと国民を煽り立て、今にも戦争が起こるぞ、もはや戦争前夜だぞとばかりのプロパガンダに狂奔しているのである。それもこれも政権浮揚が狙いである。国民への欺瞞以外のなにものでもないではないか。

 

 おまけにこの北朝鮮危機なるものが創り出されたことをこれ幸いと、アメリカは日本にミサイル防衛システムを売り込もうとしているし、日本政府も嬉々として莫大な税金を投入してこれを受け入れようと考えている。ふざけた話ではないか。

 

 中国とロシアの存在がある限り、アメリカが北朝鮮に対して軍事行動に出ることはまずない。軍事行動は朝鮮戦争の再現になる。米中間、あるいは米ロ間の戦争にも繋がりかねず、あまりにリスクが大きい。いくらトランプが愚かでも、損得勘定はできるだろう。北朝鮮は絶対に核開発ミサイル開発を止めないから、いずれかの時点でアメリカは北朝鮮との妥協に舵を切るだろう。そのとき、日本にはアメリカから買わされる軍備の負担だけが残ることになりはしないのか。

 

 さて、上で二点の認識の重要性を確認した。この認識に立って、日本の防衛政策のありようというものを、この際国民全てが真剣に考えてみる必要があるのではないか。

 

 爺庵は、米軍基地が存在するからこそ生じている北朝鮮危機を教訓とするなら、アメリカ追随、米軍依存の防衛政策を根本的に転換するべきではないかと考えている。すなわち日米軍事同盟の破棄、米軍の全面的撤退という道を真剣に考えるべきではないかというのである。米軍がいなくなって、日本の国土は守られるのかと言われることは百も承知である。それに対して、米軍抜きでも安全保障が可能となるような手段を考えるのが政治家の仕事ではないか、と言いたいところだがそう言ってしまっては身も蓋もなかろう。

 

 日本は今こそ、永世中立国として進むことをもう一度国民全体で議論して行くべきだと爺庵は思う。あまり知られていないだろうが、日本は敗戦後間もない時期、スイスのような永世中立国になるという考えに多く国民の支持がなされていたのである。それは戦争放棄を謳った新憲法に合致する外交政策として受け止められていたのである。それを実現できなかったのは、結局政治の怠慢であったであろうし、国民の反対を押し切って日米安保に突き進んだ岸信介の改憲再軍備への妄執でもあっただろう。

 

 しかし米軍基地が存する限り、アメリカの戦争に巻き込まれる危険はなくならない。この状況を打破するには、安保廃棄によって米軍の撤退を実現するしかない。ポスト日米安保の安全保障策として、おそらく安倍晋三やその取り巻きの極右輩が狙うであろう再軍備や、現行自衛隊機能の際限ない膨張を防ぐためには、憲法9条の非戦宣言を活かした永世中立は選択肢として意味のないものではない。

 

 その手段は、米中露の三国を含む多国間条約として中立条約を締結することができればよいと思うが、おそらく不可能であろうから、トルクメニスタンのように国連総会で中立宣言の承認決議を採択してもらう方法が考えられよう。

 

 道のりは遠いに違いないが、北朝鮮危機というアポリアはそれによってひとつの解を得ることができるはずだ。