おじいちゃんは、物腰も柔らかく、みんなに優しいから、トシさんってみんなから呼ばれていた。
サブローも、愛嬌のある猫で顔も可愛いし、近所の人もみんな見掛けるとサブローちゃんって言って可愛がった。
ある日、トシさんが外をウロウロしていたので、声を掛けた。
「サブローが帰ってこないんだよ。もうエサの時間なのに。いつもは決まって帰ってくるんだけどなぁ」
2、3日経ってもサブローは帰ってこなくて、近所の大人はみんなサブローは死んじゃったのかなって言ってた。
確かに猫は主人の元では死なない子も多い。
どっかにフラッと行って帰ってこない。
その1週間後くらいに、トシさんが体調を崩して入院をする事になった。トシさんは独り身なので
近所の人が交代で、入院中のお世話をする事になった。
住んでたところは田舎だったので、みんなが知り合いで、それが普通の事だった。
ある日、父の当番が回って来て、お見舞いから帰って来て
「もうダメだな。トシさん。」
と、母に話していた。
日に日に、トシさんは弱っていって亡くなってしまった。
遠方にいたトシさんの娘さんが、嫌な顔をしながら、葬儀の準備をしていた。
めんどくさいだとか、お金が無駄だとか、そんな不満を言いながらだった。
子供の私でも、すごく嫌な気分になった。
お通夜の後、火の番をしていた隣のおじさんが、うちにきて言った
「おい、サブロー、帰ってきたぞ!」
サブロー、今まで何処にいたんだろう。
この疑問はすぐ後に解けたけど。
葬儀の日、サブローはトシさんの遺体に近づき腹を見せた。何度腹を見せても、撫でてくれる手がないので、サブローは、トシさんに向って鳴いた。なんて言うのか、叫みたいな鳴き声だった。今までのサブローの鳴き声とは違っていた。
葬儀の後、サブローは近所の人にエサをもらっていた。エサを食べた後は必ず、トシさんの家に帰った。
縁側で昼寝をしたり、散歩したり、私も何度か遊んだ。
トシさんが亡くなってもうすぐ49日。
町内で法要の事を決める集まりがあった。
お菓子が出るのでそれ目当てで父についていった。議題は娘さんが来ない事とサブローの事。
誰かが飼ってあげないかと。
猫をたくさん飼っているおばさをんが、サブローを引き取る事になった。
サブローを迎えにいく。
サブローはトシさんが、よく座っていた、ウッドチェアの上で寝ていた。…いや、もう起きる事は無かった。
トシさんの家で最後を迎えた。
サブローはトシさんが連れて行ったのかな?
そんな風に思った。
それから数年後、母が近所の人との井戸端会議で、あるおばさんが、サブローを山奥に捨てに行ったという話しを告白されたと言っていた。
猫が嫌いで、家の前に来る事に我慢が出来ずホウキで叩いたところ、動かなくなってしまったので、ダンボールに入れて捨てに行ったという話し。
猫には帰巣本能がある。
きっと、何日もかけて、トシさんのもとに帰ってきたんだろう。
死んでなくてよかった。
最後はトシさんとの思い出のある椅子で死んだサブロー。
トシさんの家には今、東京から来た家族が、犬と猫と幸せそうに暮らしている。
次回予告
〜死神〜
