いま静かに染み入るようにヒットしている(しているであろう?)映画があります。


それが映画“パーフェクトデイズ”です。


主演は名優役所広司。


じつは私、なんと1週間に2度も映画館に足を運びました。

映画館に2度も続けざまに足を運ぶのは初めてだと思います。


趣味が映画鑑賞というわけでもないですし“映画通”でもないのですが、何故か心に深く刺さり込む映画でした。


2回観た理由はもう一度主人公である“平山”という男性のことを、そして登場人物全員の心の深い部分をもっと知りたくなったからです。



今度は妻ととではなく、1人で集中しながら1回目とは違う視点で映画に向き合ってきました。

主人公の“平山”は渋谷の現代アートのような公衆トイレの清掃員です。


そのことは映像から知りえることができます。


しかし、この映画は観客に向け主人公をはじめ登場人物のバックグラウンドに触れることはほぼありません。


例えば何故いま渋谷の現代アートのようなトイレの清掃員をするようになったかなどの過去に関するカットは一切ありません。


ただしあのトイレは「the tokyo toilet」というプロジェクトが2018年にスタートしていますので、映画全体を通して観ていると6年くらい前から“平山”はこの仕事を始めたのではないかと推測されます。


したがって、その6年前あたりに“平山”に何かがあったのではないかと私は推測しています。


私は2回目の鑑賞のときにおぼろげにそのことを思いました。


ですから1回観ただけでは、映像の中からその理由を探すことは相当困難だと思います。


平面的に映画の印象を述べれば、ひたすら無口な“平山”という男の現在の日常だけがドキュメンタリー映像のように淡々と流れるだけの映画です。

(ただし“平山”は豊かな感情を持つ、心優しい男であることは分かります。)


2023年秋(10月)の“平山”の12日間(多分)を切り取っただけの映画ともいえます。



それが全てです。


もちろん何人かの人達との交流は描かれていますが、それが大きな出来事にはなっていません。


結局、主人公の“平山”とはどんな人生を歩み、現在に至っているのか分からないまま、この映画は終わります。


しかし、映画館のスクリーンに流れる“平山”という男の日常を食い入るように見つめていると、自分の中にもいる“平山”的自分を見つめずにはいられなくなるのです。


そして見えないはずの平山の人生が見えてくるように感じられてきます。


この映画で素晴らしい演技を見せる主演の役所広司さんですが、ほとんど喋りません。


心の声も音声として聞こえてくることもありません。


しかしながら“平山”という男の存在が自分の心の中から消えなくなる映画です。


最後にこの映画を鑑賞する場合“邦画”を観る感覚ではなく“洋画”を観る感覚でいた方がいいと思います。


それはカセットテープから流れてくる“楽曲”に“平山”の心情がシンクロしているからです。


私は本当にこの映画はアカデミー賞を獲得するのではないかと密かに期待しているのです。