澤尊利(さわたかとし)展 ーかたちのはざまはざまのかたちー

 

 

 

 

 

 現在福岡県の宗像市曲にあるCA Galleryで澤尊利の個展が開催されている。

 

 

 ところで、数年前にも同じCA Galleryで澤の個展が開催された。私は初めて澤の作品を目にし、既視感の無さや、それらの絵が内面に及ぼす不思議さを強く感じたので、感想を書かせていただいた。調べてみると4年前の2020年の9月のことだった。だが、翌2021年からは日本でも新型コロナが流行し始め、その後世界的なパンデミックとなり、長く世の中が閉鎖された状態が続いた。

 その間も澤は精力的に制作を継続していた。そして、発表の機会を狙って、東京京橋にあるユマニテギャラリー等での個展も画策したようだ。しかし、コロナ感染の関係でままならず今日に至ったらしい。

 

 

 

 会場に伺った5月26日は、午前中北九州市立美術館本館の常設展示室で開催されている白髪一雄の作品を、可有荘ギャラリーの牧野絹子オーナーと鑑賞し、車で宗像方面に移動し、昼食をとって尋ねた。作家は不在だったが、画廊の方が1時半頃に来られると言われたので、ゆっくり展示されている絵を見ながら、澤の到着を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2020年の澤尊利の個展でも強く感じたことであるが、今回の展示風景も、個々の作品も随分変わっている。時間が十分にあったので、その理由についてあれやこれやと考えを巡らせてみた。

 確かに澤の絵は変わっているが、気持ちの良い絵である。そして、絵を見る者の気持ちを清々しくしてくれる。何故なら作品に変な計算が全くなく、他人の目を強く意識することもなく自身の関心に驚くほど忠実であるからかもしれない。

 こんなある意味無防備な絵や、そんな絵が展示されている様子をどのように説明すれば皆に十分に分かっていただけるだろうか。絵の理解の程度やそれを説明する力量の不足を痛感する・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 今回の展示は以前の展示と比べてF100など大作が多く並べられていた。また、それらの横には意図的に小品を並べていることもあり、その対比や意外な効果を楽しんでいるようにも思えた。

 作品は大きく傾向の違う2種類に分かれていた。一つは前回の個展でも見られた、想像物である大きな石や岩のような存在が、空中に1個または2個浮かんでいるような作品である。浮かんでいる存在があくまでも空想の物体であるためか、重量感が無いなど存在が希薄で、その色彩や光の感じも含めて不思議さに満ちている。

 他は新しい傾向の作品で、丸に近い多角形(更に内側に輪郭の形に沿って縁取りがされている)を横に二つ並べ、ある制約を設けて、その中でのバリエーションを試みているように思えた。

 

 

 

 

 展覧会のテーマでもある-かたちのはざまはざまのかたちーを澤は強く意識して、執拗にその可能性を探っている。それはものとものとが配置されたときに、その隙間が作るかたちであり、キャンバスの輪郭の直線とその中に配置されたものの隙間が作り出すかたちでもあるのではないか。澤のその試みの理解には難解さを伴うし、まだ十分に絵を見る者を説得するまでには至ってないようにも思えるが、繰り返ししぶとく取り組んでいることからも、澤には理想のバランスの状態があり、その実現に向けての模索だと考えればいいのではないか。

 特に横長の大画面に大きな岩のような物体が、間隔をとって二つ配置された作品は、強いインパクトがあり絵を見る者の心に強い波動を及ぼすが、二つの物体が左右の輪郭線の少し内側で截然と裁断されている様は、私にはなぜか不自然で窮屈に感じられる。

 しかし、私の判断が絶対に正しいという自信もない。こんな場合独創的な画家澤尊利の判断を信じ、静かに見守る方が賢明かもしれない。私の近隣には多くの画家がいるが、澤ほどきわどい決断を必要とする仕事をしている画家はいないし、殆どの画家の仕事は受け売りで、緊張感を欠き凡庸だ。

 澤が絵を描き続ける狙いが、調和の実現などと言う生易しいものでないことは容易に理解できる。先に澤の絵には打算がなく、他人の目を意識したところが微塵もないと書いたが、その実、自身に対しては信じられないような厳格な課題を課しているのではないか。その難題の答えを探すための模索が、澤の制作活動だと捉えることも出来る。しかし、ややもするとその試行は独りよがりや独善に陥りやすい。より確信を持って取り組めるようになった時こそ、澤の仕事がより開かれた確かな普遍性を獲得した時かもしれない・・・・・・・

 

 

 

 澤の作品を見ていて、何故だかわからないがジャコメッティの絵画活動がしきりに想起された。それは両者の作品に共通する筆触の意外な荒々しさかもしれない。

 ジャコメッティは対象の実在感の定着に腐心した。そして、何よりもそのことに執着し優先させた。したがって、筆触の美しさなどに傾注する余裕はなく、その筆触は一見雑に見える。

 澤にもよく似たところがある。いつも簡単には解決できない課題に取り組んでいる澤にとっては、筆触の美しさなどはどうでもよいことで、そんなことに構っている暇はないと言う感じだ。

 因みに一見澤に近いような絵を描いている画家達の画像を集めてみた。そしたら、それらは押しなべて工芸的で絵の表面を美しく整えているだけで、筆触についても判別すら難しい感じのものが殆どだった。

 

 

 

 最後に澤がこの個展で提示している絵の値段についてである。上の写真の左側のF100の作品が25000円で右の小品の価格は20000円である。他の作品についても同じような価格であった。

 

 

★澤尊利展 5月25日(木)~6月11日(日)

※月、火、水曜日は休廊です。

 木、金、土、日曜日は開いています。

 11:00~18:00

※CA gallery

 〒811-3413

 福岡県宗像市146-7

 ℡0940-36-6399