そこの女将が嬉しそうに水炊きを説明しとったんやけど、問題は、料理が出来上がったあとやねん。
あっつあつのグッラグラに煮えたぎった鍋のフタを、女将が素手でファーッって開きよったんや!
ふきん類や鍋つかみを使うことなく、正真正銘の素手でやで?!考えられへん!
鍋の中、煮え過ぎてボッコボコいうとるんや!まるで、血の池地獄と火炎地獄が混ざったようなっ!
シルバニアファミリーサイズの地獄絵図なんや!
普通、無理やろ?って疑問を持つほどの鍋のフタを、いとも簡単に女将は開きよった!なんでや?
水炊きが終わったあとの、おじや的なやつがグッラグラになったフタも素手で開きよった!強烈!
煮えたぎって煮え切ったあとの、再び煮えたぎって煮え切った、激アツのおじややで?!
もう鍋が割れそうなくらいの温度とちゃうんか?!
陶芸家がかまどで器を焼いとる途中でもあるまいにっ!
あの女将の皮膚は、いったいどうなっとるんや?なんの熱も通さへんのんか?
そしたら、それを一緒に見とったオカンが、
「真のオバハンは、どんなあっつあつの鍋のフタでも、素手で開くことができるんや」
と、吐き捨てよった!マジかっ?!
詳しくオカンに聞いてみると、60歳を超えたら、どんな熱い鍋のフタでも素手で開けるようになるらしい。
そういえば、うちのオカンもたいがいの鍋のフタ、素手で開けとるわっ!皮膚カッチカチやぞっ!
老舗の水炊き屋の女将も、確かに見た目60歳を完全に超えとるわ。お世辞にも美人とは言えへん。
真のオバハンや!モノホンのホンモノや!
私なんかまだまだやな。無個性なただのオバハンや。
でもいつか私も、オカンや水炊き屋の女将のように、
あっつあつのグッラグラの鍋のフタを、素手でファーッて、開いてやるで!
真のオバハンに、オレはなるっ!